7月6日のヤクルトvs阪神戦で起きた「サイン盗み事件」が波紋を広げている。事件自体はすでに広く報じられているように、セカンドランナーだった阪神・近本光司(26)が、投球前に左手を2度、3度とひらひら動かし、左打席の佐藤輝明(22)に「インコースに行くぞ」と教えていたように見えた「疑惑」だ。両軍から怒号が飛び、阪神の矢野燿大監督らは「ボケ」「アホ」など激しい言葉を発した。監督同士が話し合った結果、その場は「紛らわしい行為」ということで収めたが、近本の所作は明らかに不自然で、あれを見た多くのファンは「やっとるな」と感じたはずだ。
『週刊ポスト』(7月16日発売号)の特集では、多くの球界関係者が、「サイン盗みはある」と断言している。そもそも、かつては禁じるルールもなく、各球団が競って盗む技術を磨いていた時代もある。今は禁じられたのだから「してはいけない」のは当然だが、では何がサイン盗みにあたり、何は許されるのか、明確な線引きがあるわけではない。リーグが申し合わせたアグリーメントに、「ベンチ内、ベースコーチ、走者から、打者あるいは塁上の走者に対して球種等の伝達は行わない」とあるだけだ。「球種等」が何を指すかも明文化されていないし、どのような行為が「伝達」に当たるかも決まっていない。いわば紳士協定だ。
だから、今もプロ野球から少年野球まで、近本と同じような行為は頻繁に行われている。指導者が堂々と教えているケースも多々ある。巨人で投手コーチを務めた関本四十四氏は、近本の行為は「100%確信犯」と断言したうえでこう語る。
「近本はやり方が下手です。高校野球でももっと巧妙にやってますよ。セカンドランナーが腰の高さを変えるとか、体の向きを少しセカンド方向あるいはサード方向に向けるとかで高さやコースを伝えている」
それだけに、球界では近本がシロかクロかという議論はあまりなく(ほとんどの関係者は当然クロだと思っている)、むしろ「あの行為は本当にいかんのか」「他のチームもやってるはず」という点に関心が集まっている。巨人、阪神で4番を打った広澤克実氏は、紳士協定だからこそ品位を守るべきという意見だ。
「サインを盗んでいても、『盗みました』というチームはありません。阪神が『やっていない』と言い張るのは当然です。ただし、ルールブックに書かれたことだけを守るのがスポーツマンシップではない。疑われるようなことはしないのが紳士協定です。だから、阪神側は『やっていないが疑わしい行為だった』と認めるのが大人の対応だったと思います。監督やヘッドコーチがヤクルトの選手に罵声を浴びせたことが一番いけなかった」
一方で、「サイン盗み」の定義に疑問を投げかけるのが、球界のご意見番、江本孟紀氏。