身動きがとれない患者になってみて、初めて知り、感じられることがある。心房細動の治療で入院した、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、「生」や「死」について思いを巡らせた時間を振り返った。
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「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。保険に入っていれば金を残す」と言ったのは吉行淳之介。ぼくはロクに保険も入っていないから、大した金も残せないな、とふと思った。
6月上旬、心臓のカテーテルアブレーションという治療のため、4日間入院した。「生」や「死」について思いを巡らす時間はたくさんあった。
数年前から心房細動の発作が起こっていた。心房細動は不整脈の一つ。2010年のデータでは、日本の心房細動の患者は約80万人。今は100万人近くいるのではないかと推測されている。一生の間に3人に1人が心房細動を経験すると言われている。
ぼくの場合、突然、動悸が速くなり、それが2時間ほど続く。とても気持ちが悪いが、慣れればこんなものか、とも思う。イラクの難民キャンプに診察に行く途中、トランジットのイスタンブールで、発作性心房細動に見舞われたこともある。機内で眠れなかったことや疲労、ストレスなどが関係していたようだ。
ぼくの背中を押した主治医の言葉
心房細動でいちばん注意しなければいけないのは、脳梗塞のリスクが高まることだ。心房細動が起こると心房に血液が溜まって血栓ができ、それが心臓から流されて脳に行くと、血管を詰まらせる。
2004年、長嶋茂雄さんは、おそらくこの心房細動から脳の左側の広範囲の梗塞を起こし、右不全麻痺と失語症を起こした。80歳で3度目のエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎さんも、サッカー日本代表のオシム監督も心房細動から脳梗塞になりかかったが、後遺症は残らずに済んだといわれる。
諏訪中央病院の循環器医と相談し、不整脈を抑える薬や血栓をできにくくする薬をしばらく飲んでいたが、ついにカテーテルアブレーションをすすめられた。
「これからも、日本中だけでなく世界中飛び回るためには、心房細動を抑える治療をしておきましょう」
「最後までピンピン生きる」を目指しているぼくは、その言葉で、治療を決意した。