高齢化もあって歯周病への意識が高まるなか、口腔ケアに関心を寄せる人が増えている。業界紙の推計によると、歯ブラシや歯磨き粉などオーラルケア製品の市場規模(2020年)は前年比2.1%増の2408億円。なかでも、コロナ禍で利用が増えたネット通販を通じて、「電動歯ブラシ」の需要が拡大したという(『石鹸日用品新報』2021年7月7日付)。
近年はバリエーションも豊富で、100円ショップで購入できる「電動高速回転タイプ」から数万円する大手メーカーの「音波歯ブラシ」や「超音波歯ブラシ」まで、その種類は様々だ。
一般的に電動歯ブラシには、「手で磨くより早く、効率的に歯の汚れを落とせる」メリットがあるとされる。だが、電動歯ブラシを使ってさえいれば歯や口腔の健康を維持できるわけではない。60代男性が語る。
「去年の敬老の日に、娘から電動歯ブラシをプレゼントしてもらいました。幸い私は全て自分の歯ですが、以前、歯科検診で歯周ポケットが深くなってきたと指摘されたことがあったので、気遣ってくれたようです。
ありがたいことだと思って、1日3回、毎日使っていましたが、半年くらいで歯磨きの時の出血が増えた。歯科医に相談したところ、『歯茎が後退している』と言われて……。歯周病が進行していることがわかったんです」
日本歯周病学会のホームページにある「歯周病Q&A」コーナーには、〈電動と普通の歯ブラシはどちらが歯周病にかかった歯には良いのでしょうか?〉との設問がある。回答欄には、〈電動歯ブラシだけでお口の中を隅々まで磨くのは難しいですし、長期に使用することにより歯が余分に磨り減ってしまう可能性があります〉とあり、電動歯ブラシのリスクが指摘されている。
歯周病のケアのつもりで電動歯ブラシを使用したのが間違いだったということか。専門家に訊いた。
コントロールしにくい
日本歯周病学会元副理事長で日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座教授の沼部幸博氏は、こう注意を促す。
「電動歯ブラシそのものがいけないわけではありません。歯科医に相談のうえ、正しい使い方をすれば歯周病予防に効果はあります。ただし、普通の歯ブラシ同様、間違った使い方をすれば歯周病が悪化する可能性がある、ということです」