やはり、日本代表にはあの男が必要ではないか──。東京五輪で13大会ぶりのメダルを目指す男子サッカーはグループステージで初戦の南アフリカ、2戦目のメキシコを撃破して2連勝。準々決勝進出に大きく前進した。
テレビ中継は第1戦がNHKで森岡隆三氏、第2戦はテレビ朝日で中田浩二氏が解説を務めた。W杯予選などでサッカー日本代表戦の解説を長年担当してきた松木安太郎氏の出番はまだない。五輪ではNHKと日本民間放送連盟で構成する『ジャパンコンソーシアム』が国際オリンピック委員会(IOC)に放送権料を払っているため、各局の共同制作となっている。そのため、メキシコ戦の中継局はテレビ朝日だったが、フジテレビの西岡孝洋アナが実況を担当していた。
ネット上では松木氏の“絶叫型解説”に賛否両論あるが、一緒に盛り上がりたいと考える視聴者からの起用を熱望する声も絶えない。
どんな解説者を好むかは人それぞれだ。2戦目の解説を務めた中田氏は得点シーンでも叫ぶことなく、試合中も冷静に言葉を並べ、感嘆詞や擬音は特に発していなかった。静かな中継を見たい人にとっては望ましい放送だった。松木氏なら、日本が点を取れば『よーし、よしよし!』と“よし”を連発していただろう。初戦の森岡氏は『おっと!』など感嘆詞がかなり飛び出ており、興奮の証拠として『どう入っていくか、どう入っていくか』のように2度同じ言葉を繰り返すこともあった。ただ、落ち着いた声なので、松木氏の『PK!PK!』と違って視聴者もあまり気にならなかったかもしれない。
今回、松木氏の出番が未だにないことで、逆に唯一無二の存在が浮かび上がっている。松木氏はいつも地上波の代表戦では、老若男女にわかるように、敢えて平易な言葉で語っている。初戦の森岡氏は『リトリート』『インナーラップ』と専門用語を使っていた。普段サッカーに興味がなくても、オリンピックを見る人は沢山いる。意味を理解できない視聴者もいたはずだ。松木氏なら『リトリート』は『みんなで下がって守る』、『インナーラップ』は『空いた場所に後ろからダァーと走り込む』と説明したかもしれない。
かつてオフサイドを『急がば回れ』と表現したように、誰にでもわかるように説明する能力は日本のサッカー解説者でナンバーワンだろう。