ライフ

魚の学習図鑑の秘密 カメラマン自ら魚を調達、サメの撮影はガレージで

川に入って標本撮影に使う魚を網で捕獲する松沢陽士さん

川に入って標本撮影に使う魚を網で捕獲する松沢陽士さん

 小学生のころ、夏休みの自由研究のために学習図鑑を開いた経験がある人も多いのではないだろうか。図鑑にはたくさんの美しい写真が掲載されている。それらの写真はどのように撮影されたものなのだろうか。

 水中カメラマンの松沢陽士さん(51)は、魚の図鑑を手がける標本写真家の顔も持つ。魚の形態がリアルにわかる美しい標本写真の撮影に密着した。

 松沢さんは、『小学館の図鑑NEO [新版]魚』や、約1400種を掲載した『小学館の図鑑Z 日本魚類館』などで撮影を担当。魚の調達も自ら行ない、自宅で標本を作っていることに驚く。

「標本写真は魚の鮮度が命。メダカから大きいものはサメまで、編集者が作った掲載予定リストに基づき大小あらゆる魚を捕獲し、すぐ自分で標本を作って撮影します。川や海で捕る場合が多いのですが、知り合いの漁師さんの漁船に乗せてもらい、網にかかった目当ての魚を傷がつかないように網ですくわせてもらうことも。千葉県沖で捕獲したサメは大きすぎて家の中には入れられず、ガレージで撮影しました(笑い)。地方で採集した魚は生きたまま自宅に送り、採集時についた傷を治すためにしばらく飼育してから撮影します」

 この日、近くの川で捕獲してきた全長十数cmの淡水魚・オイカワの標本作りを見せてもらった。

「作業箱の中に置き、まず魚の姿勢を真っ直ぐになるよう整えます。次に全てのひれを広げ、ステンレス製の虫ピンを刺して固定していきます。次にホルマリン液を注ぎ、20~30分程度浸けておくとひれが開いた状態で筋肉が固まり、標本が完成します。その後、バケツの水の中に入れて撮影場所に運びます」

 図鑑に掲載する魚の写真は、その種の完全な姿が求められる。傷や欠損のない魚を入手しても、ピンを刺す時にひれが裂けたり、ホルマリンでの固定が甘くてひれが閉じたりすると使えなくなるため、工程の一つ一つに緊張感が漂う。小さい魚は水の中に入れて撮ると、美しい姿勢を保ってカメラに収めやすいという。

「標本写真の撮り方は最初、神奈川県立生命の星・地球博物館の研究者の方に教えていただいたんですよ。撮り終えた標本は、日付や場所などの記録を添えて博物館に寄贈しています」

【プロフィール】
松沢陽士(まつざわ・ようじ)/1969年生まれ、千葉県出身。東海大学海洋学部卒業。水中に暮らす生物の撮影を得意とし、図鑑の標本写真家としても活躍。『小学館の図鑑NEO[新版] 魚』『小学館の図鑑Z 日本魚類館』など多数の図鑑を担当。

取材・文/上田千春 撮影/黒石あみ

※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン