「人はそうめんでも死んでしまうのか……」。埼玉県在住の40代男性は、祖父の事故が発生した当時の様子をこう振り返る。
「87歳の祖父はアルツハイマー型の認知症を患い、飲み込む力がかなり弱っていました。うどんだとのどに詰まらせる可能性があるかと思い、そうめんを昼食に出したのですが……。
食後しばらくして祖父の様子を見に行ったら意識を失っていて、救急車で病院に搬送したのですが、その甲斐なく亡くなりました。たんや鼻水と一緒にそうめんがのどに詰まった状態で、死因は窒息による『低酸素脳症』だと診断されました」
高齢者が窒息を起こす定番の食べ物といえば餅だが、「そうめんにもリスクがあります」と指摘するのは、みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太氏。
「そうめんによる窒息の報告例は意外と多く、毎年数例の検死報告が出ています。問題があった事案だけで数例あるということは、表に出てきていない窒息事故が他にもあると考えられます」
東京消防庁の「窒息食品事故」調査によると、70代以上の窒息事故に至った食品としては、「餅」が突出して多いが、「こんにゃく」などとともに「そうめん」が挙げられている。
前出の男性が見せてくれた祖父の「死体検案書」には、「以前より嚥下機能の低下あり」と記してあった。
歳を重ねると飲み込む力が衰えがちだ。ただ、そうめんはそうした年代の人間にとっても飲み込みやすい食べ物のイメージがある。なぜ、事故が発生することがあるのだろうか。
「麺類ならではの“すする”という行為自体にリスクが潜んでいます」
と、井上医師が話す。