肝臓は沈黙の臓器といわれる。たとえウイルス性肝炎に感染していても、自覚症状がないため気づかない人が世界で2億9000万人もいるという。放置すると重症化し、肝硬変や肝がんになることも。1人でも犠牲者を減らすため、肝炎予防の啓発活動が広がっている。
和歌山県和歌山市の沿岸部にある複合施設、和歌山マリーナシティ。気温33℃を超える真夏日に照りつける太陽の下、伍代夏子(59才)が懸命に声を上げていた。7月23日、この地で催された「知って、肝炎プロジェクト」のトークセッションの一場面だ。
「7月28日の世界肝炎デー周辺の“肝臓週間”には毎年、私たち肝炎対策大使やスペシャルサポーターが全国各地へ赴いて肝炎の知識を広め、肝炎ウイルスの検査を受けてもらうことを目的とした啓発活動を行っています。
和歌山県は2018年に肝がんによる死亡率全国1位となりました。昨年からは、さらなる普及啓発を図るため、集中広報県に指定。2年連続の訪問です。私自身に肝炎を克服した経験があることから活動に参加し、患者としての体験を通して皆さんへ検査の重要性を呼びかけています」
そう語る伍代の手には「知って、肝炎」の文字が入った肝臓の形をしたブルーのクッションが。「ネイルもイメージカラーのブルーで揃えました」と気合をのぞかせた。
国内最大級かつ、世界規模の感染症とされる「肝炎」。日本人の約40人に1人、300万~370万人が肝炎ウイルスに感染していると推計されている。
ウイルス感染で慢性的な炎症が繰り返されて肝臓が硬くなり機能も悪化、重症化すれば肝硬変や肝がんへもつながる肝炎には、国を挙げて対策に取り組んできた。2013年に活動を開始した厚生労働省の肝炎対策国民運動事業「知って、肝炎プロジェクト」で肝炎対策特別大使に任命されたのが、自身も1994年にC型肝炎を患った伍代だ。
「初の座長公演が決まり、その準備の健康診断で発見されたんです。当時私は33才。折しも女性の本厄でした。ですが、舞台に穴はあけられないので治療をすぐに始められませんでした。仕事以外にも治療を先延ばしにする理由がありました。1つが副作用です。
インターフェロンというウイルスを排除する注射を打つ治療法があるのですが、当時はその副作用が強くてとても耐えられないといわれていたんです。それが半年単位で続くため仕事と両立するのは厳しかった。しかも肝炎が悪化して、黄疸(肝炎に伴う症状で皮膚や眼球の白目が黄色くなること)が出て、起き上がれなくなるなど、日常生活に支障をきたすまで治療を始められないとも言われて……。
また、私のC型肝炎ウイルスは難治性のためインターフェロン治療をしたとしても、当時の医療では完治が厳しいともいわれていました」(伍代・以下同)