天皇陛下は7月23日、約4時間にもわたって東京五輪の開会式をご覧になられた。貴賓席「プレジデンシャル・ボックス」には冷房はないものの、陛下はピンと背筋を伸ばして式典をご覧になられたが、直前までゴタゴタが続き、陛下が開会式のスタジアムにいらっしゃらない可能性さえあった。
官邸側と宮内庁側の最初の綱引きは、「有観客」と「無観客」との間で行われた。当初、菅義偉首相は観客を入れることに強いこだわりを見せていた。しかし、6月18日には政府の分科会の尾身茂会長が、「無観客での開催が望ましい」と提言。
「陛下は昨年、2度にわたって尾身会長からご進講を受け、感染対策について熱心に話を聞かれました。感染拡大を強く懸念されている陛下ですから、尾身会長の発言を耳にされ、有観客での開催に憂慮を深められたのかもしれません」(宮内庁関係者)
6月20日には9都道府県で緊急事態宣言が解除されるが、感染拡大は止まらず、7月8日には、4度目となる緊急事態宣言の発出が決定した。
「そのタイミングでようやく無観客開催が決まりました。陛下の憂慮を感じていた宮内庁も、ようやく感染対策の具体策が出てきたので、ホッとしたようです。これでようやく、陛下の開会式出席を前向きに検討できるようになったようです」(別の宮内庁関係者)
“祝う”は適当ではない
そしてもう1つの争点が、「宣言文の変更」だ。
《私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します》
先の開会式で、陛下はこう宣言された。開会宣言は五輪憲章で文言が決められている。その英語原文に含まれる「celebrating」という単語には「祝い」の和訳があてられてきた。実際、1964年の東京五輪では昭和天皇が「第18回近代オリンピアードを祝い」と述べられた。だが、今回の宣言では、その部分が「記念する」に変更された。象徴天皇制に詳しい名古屋大学大学院准教授の河西秀哉さんは次のように言う。
「感染拡大が収まらず、開催についての世論が割れている中で、陛下は象徴として開会宣言をされなければなりませんでした。ですが、根強く開催反対派がいることにも考慮され、“祝う”という表現を避けられたのではないでしょうか。文言を大きく変えることなく、開催を憂慮する国民の気持ちに寄り添う姿勢を示すこともできる。国民を慮った、陛下の配慮が感じられます」