東京五輪でアメリカはすでに14個の金メダル(29日現在)を獲得しているのに、米国民はあまりNBCの五輪中継を見ようとはしない。力作だった開会式を見た米市民は1670万人。過去33年間の五輪開会式の視聴率としては最低だった。
理由は「コロナ禍に国際オリンピック委員会(IOC)と日本の菅政権が五輪をゴリ押し開催したことへの反発もある」(米主要メディア)のだが、それ以上に、多くの国民が見たかった「女子体操の女王」シモーネ・バイルズ(24)と「女子テニスの女王」大坂なおみ(23)が棄権・敗退で早々に姿を消してしまったことが大きい。
バイルズは6歳で体操を始め、2016年のリオ五輪では女子団体、個人総合、跳馬、ゆかで金メダルに輝いた。絵に描いたようなアメリカン・ドリームを実現した黒人選手だ。一方、大坂は全米、全豪オープンで優勝したハイチと日本にルーツを持つ選手。幼い頃からアメリカで生活したため母国語は英語で、国籍は日本だが、アメリカでは多くのファンがアメリカ人だと考えている。いまや大谷翔平と並ぶ人気の日本人アスリートだ。
そしてバイルズと大坂に共通するのは、ともに国家と大企業・メディアの「広告塔」的存在だということ。好不調にかかわらず24時間マスコミに追い回されてきた。そして、二人とも精神的なダメージを負っていたのである。うつを告白した大坂は、その後も「スポーツ・イラストレイテッド」のカバーガールに起用されるなどモテモテだ。有色人種のアスリートが同誌の表紙を飾るのは史上初めてのことだった。しかし、五輪ではシングルス3回戦でストレート負けしてしまった。「プレッシャーが影響したのか」との質問に、「イエス・アンド・ノー」と答えていたが、どれだけの重圧の中でプレーしていたかは容易に想像できる。
他方のバイルズは、五輪独占中継のNBCが「客寄せパンダ」として視聴率を上げる目玉選手に仕立て上げてきた。五輪番組の冒頭や中継の合間には、彼女の褐色の肉体が美しく舞うシーンが繰り返し映し出されてきた。「東京五輪は史上最高の広告売り上げ」と豪語していたNBCの切り札的な存在だった。ところが、団体で最も得意とするゆかでラインオーバーした後に、「精神的症状」を理由に団体と個人総合の決勝を棄権してしまった(29日時点では8月1~3日に行われる種目別に参加するかは明らかになっていない)。