臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、明暗が分かれた東京五輪競泳日本代表の大橋悠依選手と瀬戸大也選手について。
* * *
実況していたフジテレビのアナウンサーの興奮が絶叫に変わった。「ものすごいことをやってのけました。とびっきりの笑顔でつかんだ、日本競泳女子、史上初の2冠達成!」。画面に映し出されたのは大橋悠依選手。7月28日、多くの人が釘付けになった東京五輪競泳女子200メートル個人メドレー決勝、勝利の瞬間だ。ラスト5メートルをノーブレスで泳ぎきり競り勝った勝利を確信すると、拳を握ってガッツポーズをし、「よし」と自分に掛け声をかけたように見えた。
目を大きく見開き舌をペロッと出しておどけてみたり、満面の笑顔でピースサインをしたりと表情がコロコロ変わっていく。ピースサインは日本女子競泳史上初の2冠を示したようにも見え、最高の瞬間を思う存分味わっている感じが伝わってきた。
25日の400メートル個人メドレーでも金メダルを獲得していた大橋選手。この時は、大きくガッツポーズをしながら、プールの飛び込み台の方をくるりと向きカメラに背を向けていた。その姿は“勝てた”という喜びを一度自分でしっかり噛みしめているようにも思えたし、満足のいく結果を出せたという安堵感もあったように見えた。
それとは対照的に、200メートルの優勝時は喜びが一気に爆発。“勝った”、“やった”という達成感や高揚感がどっと溢れ出てきた印象だ。400メートルで優勝していたことで、メダリストとして自分の泳ぎができたという自信が生まれていたのだろう。だが、それでも彼女は「金メダルと言われるとどうかなと思っていた」、「勝っても負けても何も後悔がないように泳ごうと思った」と話していた。「東京で史上最強のニューヒロインが生まれました」とアナウンサーが叫んだ通り、飛び切りの明るい笑顔のヒロインが誕生した。