高齢者が窒息を起こす定番の食べ物といえば餅だが、夏の食卓に欠かせない「そうめん」にもリスクはあるようだ。みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太氏がいう。
「長い麺をすする時、一回ですすれないと途中で『息継ぎ』を挟みます。健常な人なら食べ物を口に含んだ状態で一休みしてもう一度スムーズにすすれますが、呼吸や嚥下の機能が落ちてきた人は息を吸うタイミングを失敗して、そうめんを大量にゴボッと吸い込んで窒息してしまうことがあります」(井上医師)
そうめんを勢いよくすすろうとする人が多いのは、「そうめんの製法と関係がある」と井上医師が続ける。
「定番の『手延べそうめん』は文字通り延ばして作るため、うどんやそばのような切り麺とは違って角がなく全体的にツルツルしていてコシもあります。さらに、製造過程で食用油でコーティングするものもあるため、余計にのど越しが良くすすりやすくなるのです。
人間は体の記憶をもとに食事を楽しもうとするので、健康な頃と同じ感覚ですすろうとしてしまいがちです。自身の体の機能低下に適応できていないと、事故につながってしまうリスクがあります」
そうめんならではの、のど越しの良さには、思わぬ一面があるのだ。
誤嚥性肺炎になれば命の危険も
夏真っ盛りに向けて、麺類のなかでもそうめんを口にすることが増えていくが、重篤な病気につながることもある。
「窒息はレアなケースだと思いますが、そうめんに限らず麺類は全般的に誤嚥を起こしやすい」
そう指摘するのは、心越クリニック理事長で訪問医の岩間洋亮氏だ。誤嚥は口から入れた食べ物や汁を胃に通じる食道ではなく、肺に通じる気管に誤って入れてしまうことを指す。食べ物や汁などが気管に侵入することで雑菌が繁殖し、肺炎を起こすと「誤嚥性肺炎」となる。
厚生労働省「人口動態統計月報年計」(令和2年)によると、誤嚥性肺炎による死亡者数は全国で約4万3000人、死因では第6位(3.1%)となっている。
「そうめんのように多くの水分を絡めて食べ、しかもとろみがなくさらさらした食べ物は気管に流れて行ってしまうことがある。
健康なら『嚥下反射』といって反射的にむせて吐き出すのですが、高齢であることなどが理由で嚥下機能が落ちていると反射が遅れて、そのまま気管に流れ込んで肺に落ちてしまう。そうして異物が腐ると、肺炎につながってしまうのです」(岩間医師)