無味、無糖のプレーン炭酸水が好調だ。全国清涼飲料連合会によれば、2020年のプレーン炭酸水の生産量は31万5700キロリットルで前年比100.6%。15年前から比べると11倍にも伸長している市場だが、近年は「強炭酸」をうたう商品が目立つ。炭酸業界に何が起きているのか。
今年6月、サントリー食品インターナショナルは「サントリー天然水」ブランド史上最高レベルのガス圧の強炭酸水として「THE STRONG 天然水スパークリング」を発売した。同社がプレーン炭酸水を発売開始したのは2013年。炭酸を強めたのは2018年で、2019年になるとパッケージに「強炭酸」を表記した。
日本コカ・コーラは2018年、〈史上最高のガスボリューム〉として「カナダドライ ザ・タンサン・ストロング」を発売し、2019年にも〈さらに刺激が強く、炭酸が持続する強炭酸水〉へリニューアル。さらに今年5月には、過去最高のガス圧を実現したという「アイシー・スパーク from カナダドライ」を新発売している。
「強炭酸」が目立つようになったのはいつからか
500mlペットボトルのプレーン炭酸水カテゴリで、「強炭酸」をいち早く打ち出したのはサンガリアだ。同社は「伊賀の天然水炭酸水」を、2016年12月に「伊賀の天然水強炭酸水」としてリニューアル。また、プレーン炭酸水市場を広めた立役者でもあるアサヒ飲料が「ウィルキンソン タンサン」から500mlペットボトルを発売開始したのは2011年だが、炭酸を強めたのは2019年4月。パッケージには「史上 最強刺激」と新たに入れ、刺激の強さを表した。
キリンビバレッジは2018年に発売した無糖炭酸水「キリンヌューダ スパークリング」について、翌2019年にはミネラルを配合したうえ、〈ガス圧をアップし炭酸感を強化〉とリニューアルしている。ポッカサッポロフード&ビバレッジには2010年から「おいしい炭酸水」があるが、2018年になってパッケージに「強炭酸」と明記し、2019年「おいしい炭酸水ストロング」を発売(現在は終売)。今年3月には600mlPETボトルを新発売するとともに、同商品について〈強炭酸ならではの爽快感〉をうたっている。
こうしてみると、2018~2019年頃、各社が続々と「強炭酸」に参戦していることがうかがえるのだ。「強炭酸」が溢れるようになった理由を探るべく、医学博士で、炭酸研究の第一人者でもある“炭酸博士”こと前田眞治先生に話を聞いた。
そもそも炭酸水でリフレッシュできる仕組み
「日本人の生活に炭酸水が一気に浸透し始めたのは、今から10年ほど前、2011年の東日本大震災後あたりからです。震災後、気持ちが沈みがちな生活において、何か刺激を求めたいという気持ちがあるなかで、炭酸水がプチ贅沢になったとも考えられます」(前田先生、以下「」内同)
東日本大震災後、そして現在のコロナ禍。刺激が少ない日常において、炭酸水が存在感を示すタイミングともいえるが、そもそも炭酸を飲むとリフレッシュ気分が味わえる仕組みはこうだ。
「人間の体内には炭酸脱水酵素というものがあり、口の中でそれに炭酸がくっつくとイオンが出て、そのイオンが神経を刺激し、脳に痛みのように伝わります。そして、この痛みの刺激が強い方が爽快感を得られる。人間は刺激を感じると、その反動で一気にリラックスモードになるんですね。つまり、刺激がほしいという欲求の裏には、リラックスしたいという願望があるということです。
脳波の変化を見た実験では、冷たい炭酸水を摂取した場合、常温の水や炭酸水に比べてリラックスレベルも覚醒レベルも上がります。冷たい炭酸水を飲むと、シャキッとしながらも、心地よくリラックスもするということが証明されているのです」