このまま、金メダルまで突き進めるか──。東京五輪の野球で、日本は準々決勝のアメリカ戦を延長10回タイブレークの末、7対6で逆転勝利を収めた。だが、ここまでの戦いで浮かび上がった課題も少なくない。稲葉篤紀監督は、3対3と同点に追い付いた直後の5回表から下手投げの青柳晃洋(阪神)を投入するも、4番のカサスに勝ち越し3ランを浴びた。青柳は予選リーグ初戦のドミニカ共和国戦でも0対0の7回表から中継ぎとして投入されたが、先制点を許し、1回持たずに降板していた。プロ野球担当記者が話す。
「青柳はプロ入り後、1回しか中継ぎとして登板していないにもかかわらず、稲葉監督はドミニカ戦で2番手として起用した。それで打たれたのに、アメリカ戦でまた同じような場面でリリーフとして送り出した。しかも、ドミニカの時と同じように先頭は左バッターだった。酷な起用だったと思います」(以下同)
稲葉監督は本調子とは言えない田中将大(楽天)や大野雄大(中日)、ケガで戦線離脱していた千賀滉大(ソフトバンク)を代表メンバーに選考。田中はアメリカ戦に先発するも、4回途中でノックアウトを食らった。一方、状態を不安視された千賀は中継ぎで登板して2回を投げて被安打1、奪三振5と好投した。
「メンバー選考や起用法を見れば、稲葉監督は選手と“心中”するタイプでしょう。それ自体は必ずしも悪いわけではない。143試合戦うペナントレースなら、失敗した選手にチャンスを与えることは大事です。青柳の再起用も、その一環だったのでしょう。しかし、短期決戦では1人の選手にこだわりすぎると、上手くいかないこともある。2008年の北京五輪で星野仙一監督は、初登板で打たれた岩瀬や落球したG.G.佐藤を起用し続けましたが、復調しなかった」
逆に、短期決戦で選手に見切りを付けた指揮官は成功している。2003年のアテネ五輪予選、長嶋茂雄監督は初戦の中国戦でノーヒットに終わった3番の小笠原道大を2戦目のチャイニーズタイペイ戦で8番に下げた。すると、小笠原はマルチヒットを放ち、勝利に貢献した。2006年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で王貞治監督は1次ラウンドから不調の続く福留孝介を韓国との準決勝でスタメンから外した。福留は7回にチャンスで代打に立つと、決勝2ランを放り込んだ。長嶋監督は3戦全勝でアジア予選を突破し、王監督はWBC初代王者に輝いた。
「国際大会では最初の試合で失敗すると、引きずるケースが目立つ。シーズン中の1つのミスとは比べものにならないほどの重圧を感じてしまうものです。だから、普段と同じような起用方法をすべきですし、打てなければスタメンを外したり、打順を下げたりして、気分転換させることも有効になります」