患者を服薬のストレスやリスクから解放する“断薬”だが、具体的にどうすればいいのかわからない患者は多いだろう。そこで今回は、糖尿病治療で使われるインスリンについて、「断薬に至るプロセス」を医師に詳しく教えてもらった。
「インスリンの自己注射は煩わしいものです。血糖値を測る必要もあり、指先に痛みも伴う。外出時は一式持ち歩かなければならないので、皆さんできればやめたいと思っている。だから、内服薬だけの患者さんよりもインスリン注射をしている患者さんのほうがモチベーションも高く、減薬しやすいのです」
そう語るのは、これまで診療した2型糖尿病(※注1)患者84例すべてで脱インスリンを達成した水野雅登医師だ。
【※注1/糖尿病は原因によって「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分類される。1型は「膵臓のβ細胞が壊れ、インスリンがほとんど分泌されなくなる」、2型は「主に生活習慣により、インスリンの分泌量が減った」ことによるもの。糖尿病患者の95%が2型糖尿病に当たる】
水野医師が実践するインスリン・オフ療法は、食事の糖質を制限し、1日に体重の1.5倍以上のグラム数(体重60kgなら90g)のタンパク質を摂取するタンパク脂質食に変えるのが基本。筋肉を増やして糖の消費を促進し、糖質制限で膵臓を休ませ、細胞の働きを回復させるという考え方だ。
60代後半の男性Aさん(身長159cm、体重77kg、BMI30超の2度肥満)の例だ。糖尿病のリスクを測るHbA1c(※注2)は8.3%、血糖値は134で、インスリン2種類(ノボラピッドとランタス)を1日48単位も自己注射していた。ほかにも糖尿病の内服薬2種に加え、降圧剤なども服用していた。
【※注2/赤血球中のヘモグロビンがどの程度、糖と結合しているかを示す値。基準値は4.3~5.8%で、人間ドック学会では5.5%以下を正常と判定。6.5%を超えると糖尿病の可能性が極めて高い】
「1日3食しっかり食事をする方で、甘い物もお好きでした。ここまで重度だと、患者さんからはインスリンをやめたいと言い出しづらいでしょうが、初診でインスリンをゼロにする方針を決めました」
Aさんも水野医師の言葉に驚きを隠せなかった様子だったという。
「内服薬を1種減らし、尿から糖を出すなど2種を追加しました。脱水が起きると、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まるので、タンパク脂質食だけでなく水分の摂取方法も指導しました。この方はコーヒー好きだったのですが、カフェインの利尿作用で脱水が起きやすくなるので、コーヒーは1日3杯までにしました」