誰もが夢見る“馬券生活”。「JRA重賞年鑑」で毎年執筆し、競馬を題材とした作品も発表している作家・須藤靖貴氏も、馬券生活を夢見て、競馬の研究に勤しんでいる。そんな須藤氏が、万馬券ゲットのために夏競馬の格言「同厩舎の2頭出しは人気薄を狙え」「平場の2頭出しは双方消し」を検証する。
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格言・金言は先人の英知を端的に示してくれるありがたいもの。「親の小言と冷酒は後で効く」なんて言われたっけな。でも「今どき、冷酒なんて呑まねえもん」といった具合にやがては古びてしまうものでもある。
格言をよりどころにするのは危なっかしい。特に毎週アップデートされる競馬ではことさらだ。
今回疑うのは「同厩舎の2頭出しは人気薄を狙え」。人気馬はマークを受けやすく、そうじゃないほうが力を出し切れるという。配当の妙味はあるし、印象に残るレースも多いような気がする。
コロナ禍以前の2019年日本ダービー。【1】ロジャーバローズ(12番人気)の鮮やかな逃げ切り勝ちは記憶に新しい。この時の角居厩舎は【6】サートゥルナーリアとの2頭出し。その1番人気馬は4着に敗れている。師も「そっちか」と声をあげたくらいである。ただし格言に乗った方も多かったのかどうか、【1】の単勝は9310円だったものの複勝は930円。ワイドもそれほど付かなかった。
鞍上の緊張感にも影響がありそうだ。ロジャーバローズ騎乗の浜中も「人気を背負っていたら、思い切った早仕掛けをできたかどうかはわからない」と述懐している。
2頭出しは陣営の思惑を考える愉しみもある。先の例では、師は「GIは勝つために出馬する」と断言した。「とりあえず参戦」はない。出す以上は2頭でも3頭でも勝つ算段があるのだった。
2頭出しの首尾、実際はどんなものなのか。新しい情報がいい。去年から今年、ダービーからダービーまでの日程でオープン以上のレースでのデータを取ってみた(JRA-VAN TARGET使用)。
同厩舎複数出しは218件。うち3頭出しは14。3頭だとややこしいので2頭出しの204件に絞った。人気下位の馬の逆転は75件。その率.368と悪くない。しかしその馬が3着以内に入ったのは23件。52件は逆転ではあるが共に着外だった。馬券に絡む逆転率は.113である。
似たような格言に「平場の2頭出しは双方消し」というのもある。204回のうちどちらも馬券に絡まなかったのは112回。スカ率5割5分。
もう少し粘ってみよう。「人気している馬」を厩友(?)がひっくり返すから印象に残る。