東京五輪開会式に聖火ランナーとして王貞治氏、松井秀喜氏とともに登場し、自らの歩みで聖火を繋いだ長嶋茂雄氏。その姿が国民に与えた感動は、海外メディアが「開会式で日本がもっとも涙を流した瞬間」と報じたほどだった。
「何としても歩いて繋ぎたい」という思いは長嶋氏自身が強く訴えたものだったという。
「世界同時生中継でミスターに異変が起きては一大事と、JOC関係者が車椅子での登場を提案したが、本人が『自分の足でその場に立たないと意味がない』と言い、車椅子の使用を拒否したそうです。2004年のアテネ五輪は監督として五輪の舞台に立つはずが、脳梗塞で倒れて指揮を執ることができなかった。再び五輪の舞台に立つことがミスターの長年の夢だった」(スポーツ紙記者)
長嶋氏には東京五輪に特別な思いがある。故・亜希子夫人との出会いは前回の東京五輪。コンパニオンをしていた亜希子夫人に長嶋氏がひと目ぼれしたことは有名だ。
「東京五輪の誘致も、発端は長嶋氏と親しかった石原慎太郎氏が都知事時代に、“ミスターの気持ちに応えたい”と始めたもの。聖火ランナーにこれほどふさわしい人物はいません」(都庁職員)
しかし、東京五輪の聖火ランナーは絶望的だと見られていた。
「リハビリに励んでいた2018年に胆石が見つかった。治療したが原因不明の黄疸が消えず入院が長引き、それまでリハビリで鍛えた筋肉が落ちてしまった。退院後、五輪の1年延期が追い風となって再びリハビリで歩けるまでになったが、今年4月には腸閉塞で入院。
退院すると自宅地下室に歩行マシンを持ち込み、驚異的な回復力で開幕式に間に合わせたのです。ミスターは開会式のリハーサルにも参加し、何度も繰り返して予定の距離を歩いていました」(スポーツ紙デスク)
ミスターが執念で繋いだ聖火に、誰もが胸を揺さぶられた。
※週刊ポスト2021年8月20日号