全国で暴力団排除条例(暴排条例)が施行されて、この10月で丸10年。条例により暴力団の弱体化が伝えられてきた中、その間も反社会的人物を取材し続けてきた2人が初めてとなる対談を行った。
代表作『闇金ウシジマくん』に続き、ヤクザや半グレを顧客とする弁護士を描く『九条の大罪』が大ヒット中の漫画家・真鍋昌平氏と、密漁の実態を描いた衝撃ルポ『サカナとヤクザ』が文庫化された暴力団取材のプロ・鈴木智彦氏。2人が、「弁護士と暴力団は法律を守る側と破る側で対照的に見えるが、実は共通点がある」と語り合った。
鈴木:『ウシジマくん』は闇金を題材にヤクザや半グレが主役となる世界を描いていましたけど、今度の『九条の大罪』は彼らを顧客とする弁護士が主役ですよね。
真鍋:『ウシジマくん』を描いているときに、犯罪者側から描くのには限界があるということに気付いて。法から外れた人たちの視点と、法の内側でそのギリギリをどう攻めるかっていう弁護士の視点とは違うじゃないですか。それに、法の内側にいる人から見たほうが、読者にとっても読みやすいんじゃないかなと。
鈴木:弁護士と暴力団は近いんですよね。暴力団は利益のために法律を破り、弁護士は適法の範囲内から出ないけど、いつも法律を意識し、適法と違法の境界線をみている。仕事だって似ています。カネの取り立てなどの交渉ごとでヤクザの力を頼った人たちは、同じ仕事を弁護士に頼むようになった。
真鍋:ヤクザが言うと恐喝になっちゃうから、弁護士が代わりにやるっていうのは聞きますね。
鈴木:暴力団は「すべては組織のため。親分のため」という理屈で犯罪を正当化するけど、弁護士は法律の範囲で「依頼人のため」になんでもする。『九条の大罪』で、弁護士が犯罪者たちの利益を守る様子をみれば、多くの人は不快に思うはずです。でも、それは社会的に正しい。悪人の人権だって守らねばならない。弁護士という仕事を描けば、どうしたってなにが善でなにが悪なのか考えます。
真鍋:たしかに、そうですね。それと、私が闇金や弁護士を介してヤクザや半グレを描くのは、そういう立場にいる人たちって、ものすごい葛藤があるわけじゃないですか。法律のこともそうだし、上からもガンガン言われたり、生きるのに切羽詰まっていたりするから、ガツガツ生きているところに魅力を感じます。