ライフ

佐藤愛子さん新エッセイ集 樋口恵子さん「断筆しても佐藤愛子は永遠です」

樋口恵子さん

樋口恵子さん

 ベストセラーとなった『九十歳。何がめでたい』から5年ぶりとなる、佐藤愛子さんの最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』が8月6日に刊行された。評論家で東京家政大学名誉教授の樋口恵子さんが、この本の魅力を綴る。

 * * *
 とかく自分の不幸を他人のせいにしがちなこの世にあって、佐藤先生は、自分の責任はありったけ引き受け、もしかしたら負わなくてもいいものまで潔く背負って生きてこられました。本書では、そうした人でなければ持ちえない爽やかさと一種の品格が、全編から立ち上ってきています。だからこそ、「怒りの佐藤」などと呼ばれる喧嘩っ早さと直截な物言いがあっても、みなその底に、笑いをたたえたユーモアとして受け入れられ、楽しく読めるんじゃないでしょうか。

 本書の中で特に印象的だったのが、「マグロの気持」の一編で綴られている、父上の佐藤紅緑先生が文筆業を辞めたいきさつです。ご家族ぐるみでその悩みを担い、父上を勇気づけられた場面には感動しました。いろいろあったことは佐藤先生の『血脈』などで知られていますが、根っこの部分では愛情豊かな幸せなご家庭でお育ちになったのですね。「『ハハーン』のいろいろ」のクリスマスプレゼントをめぐる話を読んでも、佐藤先生のあの底知れぬエネルギーは、こうしたご家庭から育まれてきたのだと分かります。

 そして佐藤先生のお嬢さん、お孫さんもお優しい。書いては原稿用紙を丸めて屑籠に投げ入れる佐藤先生の様子を見て、《母さんはもう十分、仕事をして来たではないか。なぜそうガツガツするのよ》と言いつつも、《マグロなんだから仕方がない》と、母の習性を受け入れていました。

 一方、我が家の場合――。唯一の家族である一人娘は、私の健康は慮ってくれるものの、その言い方は指示命令調で、高圧的。私も負けじと応戦するものだから、日々喧嘩が絶えません。ま、これも多様性。「いろいろあらあな」と受け止めてもう少し穏やかな晩年を佐藤先生に学びたいと存じます。

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんとの写真を公開した大谷翔平(公式インスタグラムより)
《さようなら長嶋茂雄さん》大谷翔平から石原裕次郎まで、誰からも愛された“ミスター”の人生をスターたちとの交流で振り返る 
女性セブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
『激レアさんを連れてきた。』に出演するオードリー・若林正恭と弘中綾香アナウンサー
「絶対にネタ切れしない」「地上波に流せない人もいる」『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏が明かす「番組を面白くする“唯一の心構え”」【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
NEWSポストセブン
「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
現場には規制線がはられ、物々しい雰囲気だった
《中野区・刃物切りつけ》「ウワーーーーー!!」「殺される、許して!」“ヒゲ面の上裸男”が女性に馬乗りで……近隣住民が目撃した“恐怖の一幕”
NEWSポストセブン
シンガポールの元人気俳優が性被害を与えたとして逮捕された(Instagram/画像はイメージです)
避妊具拒否、ビール持参で、体調不良の15歳少女を襲った…シンガポール元トップ俳優(35)に実刑判決、母親は「初めての相手は、本当に彼女を愛してくれる人であるべきだった」
NEWSポストセブン