14歳のあどけなさ──は、微塵もなかった。初めての五輪に出場した男子高飛び込みの玉井陸斗(JSS宝塚)は、予選、準決勝を突破して8月7日に決勝の舞台を踏んだ。兄貴分である寺内健以来となる日本人選手にとって21年ぶりの入賞(7位)という結果に対しては悔しさをにじませつつ、充足感を口にした。
「オリンピックという舞台で、練習でできたことをしっかり披露できるということがわかった。自分的には自信になりました。この大会でできる最大限の演技はできたんじゃないかと思う」
5本目では入水に失敗し、激しく水しぶきが舞った。
「予選、準決で、回転が足りない落ち方をした。(決勝までの間に)修正して、回転しすぎるぐらいの感じで臨もうと思ってチャレンジした結果なので、悔いはありません」
そう話す玉井の横のモニターでは、金と銀のメダルを獲得した中国人選手ふたりや、競技の合間に編み物をしているのが話題となった銅メダリストのトーマス・デイリー(イギリス)が参加したメダルセレモニーのライブ映像が流れていた。
「やっぱり、(世界のトップ選手とは)入水の感覚に差を感じます。踏切の姿勢が綺麗だからこそ、入水もうまくいく。自分は入水に関しては100%を出し切れなかった。ノースプラッシュな(水しぶきの少ない)演技をもっともっと追求していきたいし、パリ五輪まで3年間、ちょっとでも近づけるように頑張っていきたい」
目まぐるしく肉体が変化する成長期に迎えた五輪だ。玉井の腹筋は見事な6パックで、予選、準決、決勝と6本ずつ、計18本の演技を続けてきた疲れも感じさせない。心身共に立派なオリンピアンだ。だからこそ、報道陣からはこんな質問も飛ぶ。
7月26日に決勝が行われた男子シンクロ高飛び込みで金メダリストとなった前述のデイリーは、2013年にゲイであることを公表し、競技を続けながら結婚も遂げており、「多様性」という大会テーマもあって、性的少数者(LGBT)に注目が集まった東京五輪を象徴するアスリートといえる。
――デイリーの生き方をどう思うか。
「編み物とかしているのも可愛らしいと思うし、良いと思う! ゲイということが関係あるかはわからないですけど、飛び込み方が綺麗だと感じていて。そういうところは真似していきたい」
玉井は3歳からJSS宝塚に通い始め、小学1年生で飛び込みを始めた。そして、5年生からは中国出身の名伯楽・馬淵崇英コーチに才能を見込まれ、英才教育を受けてきた。2019年4月の日本室内選手権において12歳で優勝し、一躍、東京五輪に向けた注目株となった直後、馬淵コーチは「玉井は特別な選手」と私の取材に答えていた。
「子どもの年代だと、10mの高さから飛び込む恐怖心を取り除くのは大変なんですが、彼はまったく恐れない。それがまずひとつの才能です。そして、体操選手以上のきれがあり、回転のスピード、ひねりの動きは抜群です」