大地震の発生後に「前兆現象」の報告は後を絶たない。犬がよく吠えた、カラスの大群が飛んだ、深海魚が浅瀬に出現したなどの「動物の異常行動」から、いわゆる「地震雲」、電気製品の不調、そして耳鳴りやめまいといった人間の異常など、その種類は様々だ。
こうした地震計などの機器によらず、人が感知した現象は「宏観異常現象」といい、大地震の前兆といえるのか研究されてきた。
この分野は未解明なことが多い一方、信じている人が多いとのアンケート結果もある。東海大グループが山形県内の中高生を対象に実施した調査では、少なからず動物の異常行動があると思う人は81%、地震雲は51%、電気製品の異常は33%が信じているという結果が出た。占いで少なからず予知できると回答した人も23%いた。
日本地震予知学会会長で東海大学海洋研究所客員教授の長尾年恭氏は、こうした前兆現象の情報に注意を促す。
「宏観異常現象は、予知の中でも一般の方々にとって最も身近な分野です。それゆえ関心は高い一方で、人が観測する現象ですから、観測者の“思い込み”で結果が歪められるケースが多いことに注意すべきです。
現代ではインターネットで前兆現象の情報があふれていますが、こうした情報を投稿する人はそもそも地震に関心があり、宏観異常現象を信じている可能性が高いため、情報にバイアスがかかっていると考えられます。
また、地震発生後の証言だけでなく、定期的な観測に基づいた調査も必要です。そうした精査された情報であるか否か、各自で見極めることが大切です」
日本の「動物異常行動」研究に足りないもの
宏観異常現象の収集はこれまで何度も行なわれてきたが、予知に成功した事例は少ないのが現状だ。
「1970年代の中国で起きた海城地震では、宏観異常現象で事前に避難を呼びかけて減災に成功したとされますが、そうしたケースは非常に稀です。
動物の異常現象については、未だに『地震の前にこんなことがあった』ということばかりが注目されていますが、そうではなく、地震前からの定期的な観測が必要です。地震が起きた後に集められた証言は、やはり関心の高まりによるバイアスがかかります。また、季節の変化や、同じ動物でも個体差があることも加味し、最低でも2年以上、複数の個体を観察してから検討すべきです。100年や1000年に一度起こる災害に対し、大地震直前の数日、数週間のデータだけで前兆とは判断できないのです」(長尾氏)
※週刊ポスト2021年8月20日号