コロナは主にヒトからヒトに感染するウイルスであるため、人口が密集する都会ほど感染リスクは高い。東京を中心とする首都圏や大阪圏で感染者が多いのは、単に人口が多いからではなく、人口密度が高いからだ。夏休み期間、せめて子供だけでも人の少ない田舎の祖父母の家などに「疎開」させてコロナから遠ざけようと考える人も多いようだが、田舎には田舎特有の病気があることにも注意が必要だ。
コロナより致死率がずっと高く(国内の最新データでは25~30%)、いま日本で静かに感染を広げているのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」というウイルス感染症だ。一般的には「マダニ感染症」と呼ばれており、マダニが媒介するウイルスによって引き起こされる。2011年に入って中国で発見され、2013年に初めて国内で確認された。当初は九州や中国地方など西日本で徐々に広がっていたが、今年3月には静岡で、さらに7月には千葉で感染者が見つかり、ついに関東上陸となった。これまでの感染者は600人程度だが、地域も感染者数も拡大を続けており、直近では年間100人程度に達している。
マダニは全国の山野や庭の草むらに生息する身近な虫である。発症例が西日本に多かった理由は、ウイルスを持っているマダニが西日本により多く分布しているためと考えられており、すでに感染者が出ている地域では、ウイルスを持つマダニが繁殖していると考えなければならない。厄介なのは、人間がマダニに咬まれることで感染するだけでなく、マダニに咬まれて感染したイヌやネコに引っかかれたり咬まれたりすることでヒトに感染する例も少なくないことだ。
感染すると、6~14日間の潜伏期間のあと、突然高熱が出て強い倦怠感や頭痛、筋肉痛、神経症状などが急速に進行し、重症化すると多臓器不全に陥り、最悪の場合は命を落とす。これまで有効な治療薬やワクチンがなく、対症療法で回復を目指すしかなかったが、ようやく小さな光が差してきた。感染症学などが専門の愛媛県立医療技術大学理事長・学長の安川正貴医師らによる臨床試験で、「あの薬」の有効性が認められたのである。それは、コロナ治療で注目された抗ウイルス薬「アビガン(一般名:ファビピラビル)」だ。安川氏が語る。
「SFTSは国内で確認されている感染症のなかでは致死率が最も高い病気です。潜伏期間を経て急激に病態が悪化する点や、高齢者が重症化しやすい点などは新型コロナとよく似ていますが、そのメカニズムは詳しくわかっていません。また、新型コロナの特徴である肺炎などの呼吸器症状はSFTSでは頻度は低く、症状は全く異なります。
ただし、SFTSウイルスもコロナウイルスもRNAウイルスという同じタイプなので、RNA阻害薬であるアビガンの効果が期待できるのではないかと考えています。我々が行った臨床試験では、10ポイント程度の致死率の低下がみられました(23例で致死率は17.4%)」