本人の思いとは裏腹に日本中を震撼させることになったメダル噛み事件。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察した。
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キモい、グロい、気持ち悪い、臭い、汚い、不衛生すぎる、吐き気がする、ゾッとする、正視に耐えない……。
以上は、河村たかし名古屋市長がやらかした例の行為に対し、ネット上で噴出した言葉の代表的なところだ。これらに共通しているのは、圧倒的な生理的嫌悪感である。河村市長が表敬訪問に訪れた女子ソフトボール日本代表の後藤希友投手の金メダルに無断で噛みつき、その様子が動画ないし写真で広く知らされるや、たちまち悲鳴に近い非難の言葉が湧きまくった。
たしかに私もその動画を目にした瞬間、このオヤジ何をやらかしているんだと驚いたし、全体の半分ほどが口中に押し込められた金メダルにきっと付着してしまったであろう唾液を想像して、汚ねえな、嫌なもん見せられちまったなと感じた。後藤投手が気の毒だとも思った。
しかし、少し考えて、こうも思った。もしメダルに嚙みついたのが河村市長ではなく、すばらしく爽やかなイケメン俳優であったとしたらどうだろう。例えば、佐藤健なら? 斎藤工だったら? もしくは山下智久とか?
噛みつき方にもよるが、いずれの場合も、生理的嫌悪感は相当薄まるのではないだろうか。それが佐藤なり斎藤なり山下なりのファンの感覚だったら、金メダルにさらなるプレミアがつくぐらいの話になりかわりはしないか。
河村市長は72歳である。上記のような若い男たちとの比較はあんまりだと言うのなら、竹野内豊(50)ではいかが? 西島英俊(50)は? まだ若すぎるか。ならば、いささか癖は強くなるが、舘ひろし(71)だったらどう?
人によって好悪の抱き方が違うのは当然だとしても、数多くのアンケートをとれば、噛まれても「気にならない」「むしろ嬉しい」などの回答がかなり多いはずである。なぜなら、上記した6人の俳優全員は『週刊女性』の「抱かれたい男ランキング」で上位に食いこんだ面々だからである。
ちなみに同誌は「癒されたいランキング」も発表しており、そこにランクした芸能人に明石家さんま(66)がいる。さんまのあの前歯でメダルが噛まれたらどうか。笑って済ます人のほうが多いのではないか。同じくランクインしている所ジョージ(66)だとしても然りであろう。
要は、生理的嫌悪感は行為そのもので決まるのではなく、例えば噛む人によってまったく好悪がかわってくる相対的なものだということだ。ゆえに、河村市長が後藤投手の金メダルに無断で噛みついたことはなるほど非常識なのだが、その非常識さゆえに大バッシングされたのではなく、市長の見た目や佇まいや醸し出す雰囲気などが、残念ながらマイナス評価のほうに傾きやすい部類だったので悲鳴があがったのだ。市長の権力をいいことに、なんたることをしたのだ、キモい、グロい、気持ち悪い……と想定外の大不評を買ったのである。
でも、そんなふうに相対的な問題なので、肝心の当事者である後藤投手が、実際にどう感じていたのかは分からない。噛みつきの現場では、リアクションとして「ワハハ」と笑っていたが、それは恐らく彼女の社会性がそうさせたのだろう。その後、メダルを持ち帰って、噛まれてしまったことをどう感じたのかは、彼女がその思いを発信でもしない限り、当人以外には決して分からない。
しかし、私を含めた我々の大半は、そんな話などおかまいなしに、圧倒的な生理的嫌悪感を示し、彼女に同情した。そして、そのうちの少なからずがネット上で事態を嘆き、河村市長に罵詈雑言を投げ続けた。