新型コロナウイルスの感染防止策として無観客開催となった夏の甲子園だが、出場校それぞれ2000人を上限として、生徒や保護者ら学校関係者の入場が可能となっている。その中には、ブラスバンド(吹奏楽部)も含まれる。今春のセンバツでは事前録音した音源の使用しか許可されなかっただけに、吹奏楽部員たちにとっても待ちに待った晴れの舞台となる。大阪桐蔭をはじめとする吹奏楽部の“名門”を取材してきた柳川悠二氏(ノンフィクションライター)がレポートする。
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甲子園にブラスバンドの生音が還ってきた。
絶体絶命のピンチに追い込まれた投手の驚異的なピッチングや、窮地から試合をひっくり返す劇的なサヨナラホームランなど、甲子園球場で飛び出す奇跡的な展開は、生音の力も一因だと実感する毎日だ。一般のファンの姿がないからこそ余計に、ブラスバンドの音が存在感を放つ。
今大会では、各校の応援団は内野指定席で観戦する決まりとなっているものの、ブラスバンドはアルプス席に陣取って応援をする。楽器を演奏する際の飛沫対策ゆえの“隔離”だろう。
高校野球に伝統校や強豪校があるように、吹奏楽部にも全国屈指の名門がある。「美爆音」で知られる習志野(千葉)であり、今大会の出場校でいえば大阪桐蔭だ。
習志野の吹奏楽部の顧問である石津谷治法氏と大阪桐蔭の吹奏楽部の梅田隆司監督はいわば盟友と呼べる間柄。そして、共通するのは「コンクール以上に甲子園応援を大切にしている」点だ。
少し前のインタビューとなるが、石津谷氏は野球応援についてこう話していた。
「勝てば選手のおかげ、負ければブラバンのせい。私はね、ブラバンも勝負の命運を握っていると思う。目の前で繰り広げられているのは野球という真剣勝負。うちらは相手ベンチに向かってガンガンプレッシャーをかけていく」
2019年のセンバツでは、その美爆音に対し、甲子園球場の近隣住人から苦情が入り、大会本部から音量を小さくするように注意を受けた。厳正に受け止めつつ、「音は小さくなっても、ポリシーは変わりません」と打ち明けてくれた。
一方、大阪桐蔭の吹奏楽部は今年197人の部員がいて、野球部と同じIII類(体育・芸術コース)に通う。筆者は現在発売中の週刊朝日増刊『甲子園2021』(朝日新聞出版)で梅田監督をインタビューする機会に恵まれた。
「僕のポリシーは部員全員で演奏したいということ。コンクールにしても、マーチングにしても、人数制限があるじゃないですか。だから人数に制限のない甲子園応援を大切にしているんです。うちは『唄う吹奏楽部』をモットーにしている。できるだけ多くの生徒が参加して、多くの人と交流したい」
そう言って、梅田監督は講演のパンフレットに記載された部史を広げてみせた。
「2006年の就任以来、僕は7回の甲子園制覇に立ち合っている。この2008年は浅村(栄斗、楽天)がいて、2012年は藤浪(晋太郎、阪神)が春夏連覇して、2018年の100回大会には根尾(昂、中日)、藤原(恭大、千葉ロッテ)がいた。この時の空気感は友好的でしたね。それにね、2019年春には、吹奏楽部が海外遠征で演奏できなかった東邦(愛知)の友情応援もして、結果的に東邦が日本一となったから、優勝応援は計8回になるんかな」