2017年の年間ベストセラー総合第1位になった『九十歳。何がめでたい』の発売から丸5年。待ちに待った佐藤愛子さんの最新エッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(女性セブンの連載「毎日が天中殺」を改題)が刊行され、早くもベストセラーランキングを席巻している。本書の中で断筆宣言をした佐藤さんに、その理由やコロナ禍の過ごし方などについて語ってもらった。
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いわゆる世間の風には1年半ほど触れていない
「最後のエッセイ集」と銘打たれた佐藤愛子さんの『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』が発売された。128万部を超える大ベストセラー『九十歳。何がめでたい』の、待望の続篇である。
『九十歳。何がめでたい』が売れに売れたために、取材や執筆、テレビ出演などをこなし、ヘトヘトになって昏倒して顔を打ち、「コテンコテンにやられたボクサー」のようになったことや、40代半ばで離婚し、元夫が残した借金のため馬車馬のように働き、返済して北海道に別荘を建てた話、幼い頃や戦争中の記憶、最近の政治やニュースについての時評など、多彩な話題がユーモアをちりばめ綴られている。
長引くコロナ禍の中で、佐藤さんはどう過ごしておられたのか。
「ワクチンは2回接種しましたが、全然、外に出ていません。整体には通っていますけど、車で行くから、いわゆる世間の風には1年半ほど触れてないですね」
もう、よれよれです、と言われるが、電話がかかってくると、すっと席を立ち、みずから受話器を取って応対する。「元気そうで」と言われてしまうのが悩みの、張りのある声も健在だった。
5月、『女性セブン』誌上での、突然の断筆宣言には驚いたが、いま思えば予兆はあった。
その少し前、「マグロの気持」と題して、父である作家佐藤紅緑が、編集者から原稿への苦情の手紙をもらい、筆を折ったときのエピソードが紹介されていたのだ。数か月後、思うように書けず、丸めた原稿用紙が散乱した書斎を見た孫に、「おばあちゃん、もう、書くのをやめれば……?」と言われ、医者には「書くのをやめたら死にます」と予言されるが、「かくして私はここに筆を措(お)きます」と、断ち切るように読者に別れを告げた。