コンビニでは24時間いつでもおいしくて安価な食べ物が購入でき、どんな格安のビジネスホテルでもトイレは清潔で温水洗浄便座がついている──東京五輪で訪れた外国人たちはこぞって日本の豊かさを絶賛し、帰国していった。しかしその内側は皮肉にも悲痛な叫びに満ちている。
《我々が老いた時まともに社会保障を受けられるのか不安。今の年寄り世代が何もかも食いつぶしてしまうのではないか》(東京都・20代)
《子供は欲しい気持ちもあるけれど、産めば仕事を辞めなければならないだろうし、数十年後のこの国でその子が幸せに暮らせるかと考えると、産むメリットが思いつかず行動に移せません》(和歌山県・20代)
これらは、参議院議員の山田太郎さんが「不安に寄り添う政治のあり方勉強会」のために2020年1月にツイッターで「あなたの不安を教えてください」と呼びかけて実施したアンケートへの回答だ。
10~40代を中心にした約2000人の回答者は口々にリアルな苦境を訴えた。老後、仕事、年金、育児や教育など、掲げられたトピックスは多岐にわたるが、共通しているのは全員が底知れない心細さに苛まれていることだ。山田さんは、これほどまで将来への不安が噴出したことに驚いたと話す。
「自分がバブルの時代を経験したからか、たとえお金を使ってしまっても一生懸命仕事をしていれば報われると考えていましたが、もはや時代が違う。現代は超高齢社会で100才まで生きられるようになり、多くの若者は長い老後を生きるための年金や働き方、老後資金に不安を抱いています。『老後を生き抜くのはもう無理なんじゃないか』というのが彼らに共通する不安です」(山田さん・以下同)
若者に蔓延する不安はシニア世代をも蝕んでいく。回答内容の中には「老いた親を支える自信がないから一家心中したい」「私たちの年金は高齢者に食いつぶされてしまうのではないか」といった自らを「シニア世代の犠牲者」だと吐露するものも散見された。
一見すると多くの人は「お金」を心配しているようだが、「根底には別の問題がある」と山田さんは指摘する。
「若い世代の不安は貧困や経済的な原因がすべてだといわれがちですが、それはステレオタイプ的な見方です。むしろ根底にあるのは、“思い描いたような生き方ができないこと”あるいは“こう生きなくてはならないという圧力”ではないでしょうか。そもそも、どう生きたいのかわからないと嘆く若者も多くいる。昔ほどの勢いはなくなったとはいえ、日本は現在もGDP世界3位の経済大国にもかかわらず、みんなが自信をなくしているように思えます」
多くの人が生きづらさと不安を感じざるを得ない──そんな社会を作家の橘玲さんは最新刊『無理ゲー社会』で攻略困難なゲームにたとえて解き明かしている。
「“無理ゲー”とは、何度チャレンジしても攻略できないゲームのこと。いまの社会で勝ち残るためには社会的・経済的に成功し、多くの評判と性愛を手に入れなければならない。これはきわめて難易度が高く、理不尽なゲームだといえるでしょう」(橘さん)
自分の意思に関係なくゲームに参加させられ、攻略できずに自信と安心を失っていく──そんな不合理な現実に私たちはどう向き合うべきなのか。