128万部を超える大ベストセラーとなった『九十歳。何がめでたい』の発売から丸5年、佐藤愛子さんの最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(女性セブンの連載「毎日が天中殺」を改題)が刊行された。『九十歳。何がめでたい』以上にキレッキレで面白い、との声も上がる話題沸騰の本書は、佐藤さんの断筆宣言も収録した「最後のエッセイ集」になる。この最新刊について、そしてコロナ問題や東京五輪などについても、今秋98歳になる佐藤さんに話を伺った。
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なんでみんな、あんなに外に出たがるんでしょう
書籍化にあたって、連載時のタイトル「毎日が天中殺」を『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』と改題した。1969年に第61回直木賞を受賞した『戦いすんで日が暮れて』を連想させるタイトルである。
「これは私の最後のエッセイ集ですから、いろいろ考えて、自分が世に出るきっかけになった『戦いすんで日が暮れて』にちなんだものにしたいと、このタイトルにたどりつきました。もういい加減に、戦いも終わって、日も暮れてほしいけど、なかなか暮れないのよ(笑い)」
同時に、『九十歳。何がめでたい』を増補した文庫本も出る。90歳を越えて初めて「ベストセラー作家」になったことを、佐藤さん自身はどう受け止めておられるのだろう。
「どうって、特別な感想というものは別にないわね。ああ、そうですか、っていう……。あえて言うなら、『なんで?』でしょうか」
端然と答える佐藤さんである。
もともと人気作家なのだが、『九十歳。何がめでたい』の大ヒットは、時ならぬ佐藤愛子ブームを巻き起こした。次々に本が刊行され、佐藤さん自身、愛着があるという短篇「オンバコのトク」が復刊され(『加納大尉夫人/オンバコのトク』)、ムック『佐藤愛子の世界』も出た。
『佐藤愛子の世界』に再掲された直木賞の「受賞のことば」を読むと、「少なくとも九十歳まで生きたい」と書かれている。半世紀前にはおそらく実現不可能だろうと思われた「90歳で現役」という願いを、佐藤さんはかなえてみせた。
「読み返して、『つまんないことを言ったもんだな』と思いましたよ(笑い)。この頃になってつくづく思うんですけど、書くっていうことは、もう私の生活の全てだったんです。
朝目覚めたときに、いま書いているもののことがパッと頭に浮かんで、布団の中で1時間ぐらいいろいろ考えて、さあ、その線で行こうと思いついて、意気込んで起き出す。活気がありましたね。書かなくなったら、起きたって何もすることがないから、じゃあ寝てようか、ってなりますよ。
いまだって、オリンピックについても、コロナの問題についても、気にはなります。オリンピックはやらない方がよかったですし、感染者がどうしてあんなにいまも増えているのか知りたい。でも、なんでみんな、あんなに外に出たがるんでしょう。私の育った時代には、やたらに表へ出る人は悪口言われたもんですけどね。それも、もう書くことはないと思うと、いろんな問題を深く考えず、そのままスルーしちゃうんです。
退屈なら書けばいいじゃないか、と言われますけど、机に向かって万年筆を持ち、最初の1行を書くというのが、もう大ごとなんですよ。昔は、座るとすぐ頭に何か浮かんで、さっと入れたんですけどね。これは肉体の衰え、生理的な衰退ですから、いくら意思の力で奮い起こそうとしてもダメ。老いるというのは、そういうことだと思います」
小説『晩鐘』が出て取材した6年前、佐藤さんはたしか、「人工的な街に変わって、それまでの東京ではなくなりそうで、次のオリンピックは見たくない」と言っておられた。