国内

楽な“取材”に未来無し 石戸諭氏が考える「良いニュース」とは?

石戸氏の思いとは

石戸諭氏がニュースについて考察

 SNSが発達すれば、ニュースをめぐる環境は変わる──そんな“理想”が語られた時代は去った。現在のネット上で見られるのは、自分が見たい意見ばかりを見たり、反対意見の持ち主を“論破”したりするユーザーや、取材せずにオンライン上の情報だけをまとめたいわゆる「コタツ記事」を書くメディア……といった光景だ。

 そうした現状を打破する「良いニュース」とは何か、それはどう発信され得るのか。新刊『ニュースの未来』(光文社新書)を上梓したノンフィクションライターの石戸諭氏が、ノンフィクションの伝統と、自らの仕事を踏まえて考察した(本稿は『ニュースの未来』を抜粋・再構成したものです)。

 * * *
 僕が著書『ルポ百田尚樹現象』で試みたのは、アメリカで言えばフェミニズム社会学者、A・R・ホックシールドのフィールドワーク記録『壁の向こうの住人たち アメリカ右派を覆う怒りと嘆き』という本に近いものです。

 彼女は明らかにリベラル派知識人でありながら、「壁」を越えて、トランプ政権誕生を支えることになる右派の人々の心情を理解しようと声を聞き、研究を重ねていきます。彼女の研究を僕の言葉で言い換えると、右派の「心情」にこそニュースが宿っていると確信し、彼らの生活に迫ったのです。

 取材時に大きな問題になっていたベストセラー『日本国紀』など百田さんは現代日本における「歴史修正主義」もしくは「右派的歴史観」の旗手にして、安倍晋三長期政権(2012年~2020年)を側面から支えてきた流行作家と見る人もいます。かたや右派にとっては最大の味方であり、インフルエンサーです。

『日本国紀』は、事実誤認や参考文献がないという批判ばかりか、ウィキペディアからの引き写しのような記述や、他文献からの盗用を指摘する声もありました。増刷のたびに修正を繰り返す「問題の書」でもありました。

 僕は彼を支えてきた人々を取材することで、一つの大きな問いに対する答えを明らかにしようと目論んでいました。彼には、誰も否定することができない厳然たる事実があります。ベストセラーを連発し、社会現象を巻き起こし、一つの時代を築いた当事者でもあることです。

 彼はSNSで声をあげることがない人々からも出版マーケットで人気を獲得し、彼らの思いを汲み取ることで地位を確立してきました。なぜ、支持を得ることができたのか。その土壌はどこにあるのか。

 取材を始めたときから、内々に大きな批判がやってきました。僕が取材していることをどこかで聞いた、ある著名なジャーナリストからは「あんな人物をメディアとして取り上げるべきではない。相手を利するだけだ。絶対に書いたものは読まない」と言われました。端的に言えば、「彼らの声を広げる手助けになるだけだから、無視すべきだ」というものです。

関連記事

トピックス

精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《ショーンKの現在を直撃》フード付きパーカー姿で向かった雑居ビルには「日焼けサロン」「占い」…本人は「私は愛する人間たちと幸せに生きているだけなんです」
NEWSポストセブン
気になる「継投策」(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督に浮上した“継投ベタ”問題 「守護神出身ゆえの焦り」「“炎の10連投”の成功体験」の弊害を指摘するOBも
週刊ポスト
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
九谷焼の窯元「錦山窯」を訪ねられた佳子さま(2025年4月、石川県・小松市。撮影/JMPA)
佳子さまが被災地訪問で見せられた“紀子さま風スーツ”の着こなし 「襟なし×スカート」の淡色セットアップ 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン