法に違反しているわけではないが、肩身が狭い趣味嗜好がある。近年は、喫煙がそこに仲間入りした。とくに東京都内は、五輪へ向けて喫煙できる場所が大きく制限する仕組みがつくられたため、タバコを吸える場所探しに右往左往することも。喫煙者であるライターの森鷹久氏が、喫煙所難民たちの今をレポートする。
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都内某所にある、ある大手機械メーカーの本社ビル。18時の終業から程なくしてビルの外に飛び出してきたのは、この機械メーカーに勤務する澤田良彦さん(仮名・40代)だ。一体何をそんなに急いでいるのかというと、同じ嗜好の人にはよくわかる、切羽詰まった事情があった。
「タバコですよ。もう社内には喫煙所がありませんから。コロナ以降、ほとんど全ての喫煙所が撤去され、始業前と始業後に、近くの喫煙可能な喫茶店に駆け込むんです」(澤田さん)
健康増進や受動喫煙防止の観点からこの数年、タバコや喫煙者を取り巻く環境は激変した。そして、コロナ禍をきっかけに変化はさらにすすみ、多くの企業で喫煙所が縮小されたり撤去されるなどしている。澤田さんの会社では、昨年の冬ごろに各階ごとに設置されていた喫煙所が撤去され、喫煙所は数えるほどになった。その喫煙所も、一度に入室できるのは数人までで、10分以内に喫煙を終え部屋を出るよう、張り紙が掲出されていたというが、果たして効果はあったのか。
「喫煙所の前に行列ができて、入室人数も守られず、狭い空間で10人がひしめき合うようにタバコを吸う、という有様。上司が喫煙していると、部下は遠慮して入れず、他の喫煙所を探して歩く。そんな感じでした」(澤田さん)
その数少ない喫煙所も、今年に入ってからほぼ全てが閉鎖された。ただ「ほぼ」であり、喫煙所は残されてもいた。
「上層階の役員フロアの片隅に喫煙所があるという情報が、喫煙者仲間の同僚からもたらされました。チャレンジしよう、ということで若手の社員が行ったそうですが、とんでもない上役の人と鉢合わせしたらしく……。結果的に、我々平社員がタバコを吸える場所は会社内にはなくなり、喫茶店というわけです」(澤田さん)