習近平国家主席が突如打ち出した「共同富裕」が中国で波紋を広げている。「富裕層叩き」とも言える政策に恐れをなした企業が、既に財産を自発的に寄付するなどの動きを見せているが、中国の経済、社会に詳しいジャーナリストの高口康太さんは、「格差是正だけではない別の狙いがある」と話す。習近平政権はなぜ今、富裕層への締め付けに乗り出したのか、高口さんが解説する。
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「殺富済貧」(金持ちを殺して貧民を救う)が始まったのか? 中国の富裕層に恐怖が広がっている。
習近平総書記は、8月17日に開催された中国共産党中央財経員会第10回会議で、「共同富裕」を新たなテーマとして打ち出した。特に注目されているキーワードが「三次分配」だ。市場経済による一次分配で生まれた格差を、税や社会福祉による再分配(二次分配)で是正する……というのは一般的な理論だが、なんとその先に三次分配という聞き慣れぬ手法があるという。
中国経済網の記事によると、このキーワードの初出は1994年に出版された厲以寧(リー・イーニン)著『株式制と現代市場経済』(江蘇人民出版社)。「個人が自発的に、習慣と道徳の影響の下に、可処分所得の一部分または大部分を寄付すること」を意味するという。同書の出版から20年あまりが過ぎた2019年の四中全会(中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議)、2020年の五中全会(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)で、慈善活動の発展を促すとして言及されていた。
慈善活動を促すだけならば、富裕層が恐れる必要はなかろうが、習近平主席は前述の会議で、「高収入を合理的に調節し、違法収入を取り締まる」と発言している。中国の富裕層といえば、改革開放政策が始まってから過去40年間に成り上がった人ばかり。みな叩けばほこりが出る体だけに、この発言に震え上がるのは無理からぬところだ。
素早い動きを見せたのが、中国IT大手のテンセントだ。時価総額で中国トップの大企業だが、共同富裕発言の翌日、農村振興や低所得者の支援に500億元(約8500億円)を寄付すると発表した。同社は今年4月にもSDGs支援として500億元の寄付を発表したばかり。わずか4か月の間に1000億元(約1兆7000億円)の出費となったが、お上に叱られて「高収入を合理的に調節されるよりも、自発的に寄付したほうがまだ傷は少ない」との算段だろうか。
新興EC(電子商取引)企業のピンドゥオドゥオも24日、農民支援に100億元(約1700億円)を寄付すると発表。大手スマートフォンメーカー・シャオミの創業者である雷軍(レイ・ジュン)は172億元(約2900億円)の株式を慈善機関に寄付したと発表した。今後もこうした動きは拡大しそうだ。