【著者インタビュー】真保裕一氏/『シークレット・エクスプレス』/毎日新聞出版/1870円
主人公は半年前に現場を離れ、現在は本社戦略推進室に籍を置く、JR貨物の元名物運転士〈井澄充宏〉。
真保裕一氏の新刊『シークレット・エクスプレス』は、彼ら貨物輸送のプロに下されたある密命と、その裏に蠢く様々な思惑を描くノンストップサスペンス。ある時、〈急な九千の相談がきた〉と呼び出しを受けた彼は、それが年に数回ある特別な筋からの臨時列車の運行要請だと確信するが、事は輪をかけて複雑だった。
依頼主は自衛隊、積み荷は特別な燃料とだけ明かされ、〈実は政府肝煎りの緊急テストケースなのです〉と、同席した航空幕僚監部でも防衛装備庁の役人でもなく、なぜか三峯グループ傘下の運送会社社員〈城山健吾〉が言う。そして東青森駅で50tコンテナ・18個を積み、佐賀・鍋島駅に送り届ける臨時列車9999、通称・フォーナインに彼自身乗り込むのだが、その行く手を何者かが阻もうとしていた。
「着想自体は古く、25年前。ずっと書けずにいた構想が書けたのは、東日本大震災が大きかったと思います。作中にも書きましたけど、東北全域で車道が寸断され、物資の供給が断たれた時に、JR貨物が1日2便、上越線から日本海側を経由して、石油を被災地に輸送したことがあった。
それを聞いて私がまず連想したのが映画『恐怖の報酬』で、あれは南米の油田で爆発が起き、消火用のニトロを賞金目当ての流れ者が運ぶんですけど、石油やニトロよりもっと危険なものを運ぶとしたら? と思ったのが1つ。さらにここ数年、いろんな企業で検査データの改竄が発覚し、しかもその素材がそのまま出荷されたりとか、現実のいろんな要素がミックスされていきました」
鉄道、それも貨物と謎の掛け合わせに本作の真価はあろう。そもそもJR各社の線路を借り、既存ダイヤの隙間を縫って編成・運行するJR貨物の存在自体、一見地味だけに発見も多い一大インフラ。駅や路線も旅客用とは少しずつズレ、普段目に入らない別世界が同じ日本に存在することに、鉄道マニアならずともワクワクせずにはいられない。
「かの西村京太郎先生でも、JR貨物は書いていないというのが売りなので(笑い)。取材も本当に楽しくて、大井の東京貨物ターミナル駅では運転士や教官の方によくぞってくらい話を聞かせて頂いたし、武蔵野線が元々は貨物専用に敷設され、その名残みたいな時刻表にないルートが今でも地下を走っていたりとか、初めて知る話もかなり多かった。
要するに僕はプロフェッショナルが好きなんですよ。日本の鉄道マンってホント凄いですから。特に貨物はダイヤの網の目を縫うようにして日常的に物を運び、なのにその凄さがほとんど知られていない。そしてこの知るってことが、本作の裏テーマではありました」