日本の総人口の約1割が東京都に集中しており、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)でみると約3割にのぼる。ほとんどの都道府県で人口は減少しつづけているなか、東京圏へは進学や就職などで他地域からの流入が続いている。以前なら、成長過程のひとつとして寂しさを感じつつも子供を東京圏へ送り出してきた地方在住の親たちだが、新型コロナウイルス感染症の流行により、離れて暮らす子供の「上京」をどう考えるべきかを問われている。ライターの森鷹久氏が、新型コロナウイルス感染をきっかけに、東京で一人暮らしをする子供を案じ、逡巡する親たちについてレポートする。
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「息子とはもう一年半以上会えていません。大袈裟かもしれませんが、生きた心地がしておらず、このまま二度と会えなくなるんじゃないかと思い毎晩泣いているような状況です」
四国地方在住の専業主婦・松井貴子さん(仮名・50代)には、東京で一人暮らしをしている大学生の長男(19歳)がいる。昨年の4月に晴れて入学したものの、学校にはほとんど行けず、狭い自宅アパートで、パソコンを使ったリモート授業を受けるだけ。上京直後には飲食店でのアルバイトも決まっていたが、間も無くコロナを理由に採用を取り消された。
「親バカだと思われるかもしれませんが、息子は母親思いで忍耐強い。仕送りをすると、なんの心配もいらないと笑って電話をしてきてくれていましたが、6月に新型コロナウイルスに感染していることがわかりました。恐れていたことが起きたなと」(松井さん)
息子の容体は、医師や保健所から言わせると「重症」に当たるものではなかったが、受話器から聞こえる子供の声は聞いたこともないほどか細く、仕切りに咳き込み、その度に松井さんの心は引き裂かれるようだったという。
「息子は39度近い高熱もあり、今すぐ東京に飛んで行って、看病をしてあげたいと思いました。でも、私はワクチンを接種しておらず、そんな状態で行くのは自殺行為だと旦那に強く止められてしまった。息子には謝りましたが、子供を親が見捨てているようでその夜は眠ることもできませんでした」(松井さん)
地元の役所や保健所に事情を説明し、東京まで車で迎えに行き、自宅に連れ帰って療養させることも検討したが、担当者は「危険だ」と息子を連れ帰ることに懸念を示した。結局、松井さんはスマホで息子と繋がるしかなく、メールの返信が一時間途切れるだけで、息子の容体が急変しているのではないかと、最悪の結末が頭を過ぎる。
「息子は二週間ほど、自室で一人で寝込んでいました。私もストレスで体重が8キロ減り、円形脱毛症にもなった。毎朝仏壇に手を合わせて、息子が無事に帰って来られるようにと祈りました」(松井さん)