ライフ

東京住まいの子供の安全をどう守るのか 地方で暮らす親たちの複雑な胸中

8月29日、東京・渋谷の若者向けワクチン接種のために並ぶ人たち(イメージ、時事通信フォト)

8月29日、東京・渋谷の若者向けワクチン接種のために並ぶ人たち(EPA=時事)

 日本の総人口の約1割が東京都に集中しており、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)でみると約3割にのぼる。ほとんどの都道府県で人口は減少しつづけているなか、東京圏へは進学や就職などで他地域からの流入が続いている。以前なら、成長過程のひとつとして寂しさを感じつつも子供を東京圏へ送り出してきた地方在住の親たちだが、新型コロナウイルス感染症の流行により、離れて暮らす子供の「上京」をどう考えるべきかを問われている。ライターの森鷹久氏が、新型コロナウイルス感染をきっかけに、東京で一人暮らしをする子供を案じ、逡巡する親たちについてレポートする。

 * * *
「息子とはもう一年半以上会えていません。大袈裟かもしれませんが、生きた心地がしておらず、このまま二度と会えなくなるんじゃないかと思い毎晩泣いているような状況です」

 四国地方在住の専業主婦・松井貴子さん(仮名・50代)には、東京で一人暮らしをしている大学生の長男(19歳)がいる。昨年の4月に晴れて入学したものの、学校にはほとんど行けず、狭い自宅アパートで、パソコンを使ったリモート授業を受けるだけ。上京直後には飲食店でのアルバイトも決まっていたが、間も無くコロナを理由に採用を取り消された。

「親バカだと思われるかもしれませんが、息子は母親思いで忍耐強い。仕送りをすると、なんの心配もいらないと笑って電話をしてきてくれていましたが、6月に新型コロナウイルスに感染していることがわかりました。恐れていたことが起きたなと」(松井さん)

 息子の容体は、医師や保健所から言わせると「重症」に当たるものではなかったが、受話器から聞こえる子供の声は聞いたこともないほどか細く、仕切りに咳き込み、その度に松井さんの心は引き裂かれるようだったという。

「息子は39度近い高熱もあり、今すぐ東京に飛んで行って、看病をしてあげたいと思いました。でも、私はワクチンを接種しておらず、そんな状態で行くのは自殺行為だと旦那に強く止められてしまった。息子には謝りましたが、子供を親が見捨てているようでその夜は眠ることもできませんでした」(松井さん)

 地元の役所や保健所に事情を説明し、東京まで車で迎えに行き、自宅に連れ帰って療養させることも検討したが、担当者は「危険だ」と息子を連れ帰ることに懸念を示した。結局、松井さんはスマホで息子と繋がるしかなく、メールの返信が一時間途切れるだけで、息子の容体が急変しているのではないかと、最悪の結末が頭を過ぎる。

「息子は二週間ほど、自室で一人で寝込んでいました。私もストレスで体重が8キロ減り、円形脱毛症にもなった。毎朝仏壇に手を合わせて、息子が無事に帰って来られるようにと祈りました」(松井さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

西武・源田壮亮の不倫騒動から5カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武源田と銀座クラブ女性の不倫報道から5か月》SNSが完全停止、妻・衛藤美彩が下していた決断…ベルーナドームで起きていた異変
NEWSポストセブン
大谷夫妻の第1子誕生から1ヶ月(AFP=時事)
《母乳かミルクか論争》大谷翔平の妻・真美子さんが直面か 日本よりも過敏なロスの根強い“母乳信仰”
NEWSポストセブン
ホストクラブで“色恋営業”にハマってしまったと打ち明ける被害女性のAさん(写真はAさん提供)
〈ちゅーしたら魔法かかるかも?〉被害女性が告白する有名ホストクラブの“恐ろしい色恋営業”【行政処分の対象となった悪質ホストの手練手管とは】
NEWSポストセブン
公務のたびにファッションが注目される雅子さま(撮影/JMPA)
《ジャケットから着物まで》皇后雅子さまのすべての装いに“雅子さまらしさ“がある理由  「ブルー」や小物使い、パンツルックに見るファッションセンス
NEWSポストセブン
小室圭さんと眞子さん(2025年5月)
《英才教育》小室眞子さんと小室圭さん、コネチカット州背景に“2人だけの力で”子どもを育てる覚悟
NEWSポストセブン
アントニオ猪木さん
アントニオ猪木を看取った付き人が明かす「最期の2か月」 “原辰徳の物まねタレント”が猪木を介護することになった不思議な巡り合わせ
週刊ポスト
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
【ステーキの焼き方に一家言】産後の小室眞子さんを支えるパパ・小室圭さんの“自慢の手料理”とは 「20年以上お弁当手作り」母・佳代さんの“食育”の影響
NEWSポストセブン
不正駐輪を取り締まるビジネスが(CPGのHPより)
《不正駐輪車を勝手にロック》罰金請求をするビジネスに弁護士は「法的根拠が不明確」と指摘…運営会社は「適正な基準を元に決定」と主張
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン