年を取るにつれ病院などで処方される薬が増えてしまうが、多剤処方の患者にとって大きな負担が、「医療費」だ。保険適用とはいえ、薬の数が増えればその分費用はかさんでいく。そこで注目されているのが安価な「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」だ。しかし、先発薬から変えた患者にとってメリットばかりとは限らないと指摘する専門家もいる。何が原因なのか。
出荷検査の組織的不正、異物混入による健康被害など相次ぐジェネリック医薬品メーカーの不祥事発覚を受け、厚労省はこの6月から7月に全国のジェネリック製造工場で一斉抜き打ち検査を実施した。その結果が、まもなく公表される(8月中の予定)。
抜き打ち検査の直接の契機は、ジェネリック大手の日医工(富山市)や小林化工(福井県あわら市)で昨年発覚した、製造手順や品質管理における違反行為の数々だ。それにより、両社は今年2月と3月にそれぞれの県から「業務停止命令」の行政処分を受けた。
ジェネリック医薬品への信頼が揺らぐなか、厚労省は信頼確保に向けて2022年度概算要求で「立入検査や承認申請資料の適合性調査」を強化するための予算を盛り込む見通しだという(日刊薬業8月23日付)。
厚労省担当者は予算について「公表していない情報なので事実かどうか答えられない」(医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課)というが、同省は6月に行政処分の基準の明確化や業務停止日数の上限引き上げを行なっており、ジェネリック医薬品メーカーの不正をきっかけに、今後、全国で規制が強化される見込みだ。
厚労省が危機感を募らせる背景には、医薬品を「ジェネリック」に変える患者が急増していることがあるだろう。2013年に47%だったジェネリック使用割合(数量ベース)は、2019年12月に80%を超え、現在も伸びている。
ジェネリックの普及拡大は、「医療費削減」を目的とした“国策”だった。先発薬と有効成分は同じだが、開発費用が安く開発期間も短いため、値段は先発薬の2~7割程度。病院や調剤薬局は、ジェネリックを多く処方することで「報酬加算」されるなど、「先発薬からジェネリックに変える」という流れは加速されてきた。新潟大学名誉教授の岡田正彦医師がいう。
「たしかに薬の値段が安くなるのはメリットですし、ジェネリックは先発薬と同じ有効成分で安全性の確認もされています。今や患者さんから『先発薬にしてください』とは言いにくいほど、ジェネリック推進の空気ができています。しかし、それで問題なしとは言えません。先発薬とは異なる部分もあり、安価だからといって医師に相談せずにジェネリックに変えるという判断にはリスクが伴います」
実際に、“同じ薬”と思ってジェネリックに変えたところ「体調不良になった」というケースもある。60代の男性が言う。
「それまで2年ほど飲み続けていた脂質異常症の薬をジェネリックに変えたのですが、2週間ほど経った頃から歯を磨いた時に歯ぐきから血が出るようになりました。医師に相談して先発品に戻したら、血は出なくなった」
効き目が同じとされるジェネリックで、なぜ先発薬と違いが出るのか。