1970年代からの落語ファンである音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏による週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭昇々、立川吉笑、瀧川鯉八、玉川太福(浪曲師)による創作話芸ユニット「ソーゾーシー」のネタおろし公演についてお届けする。
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7月22日、渋谷のユーロライブでソーゾーシーのネタおろし公演を観た。ソーゾーシーとは2017年に春風亭昇々が「新作の凄さを広く発信していきたい」と立川吉笑、瀧川鯉八、玉川太福(浪曲師)に声を掛けて結成した創作話芸ユニットだ。
トップバッターの太福は人気シリーズ「地べたの二人」の最新作『JAFを待ちながら』。「地べたの二人」は作業服で現場仕事をする金井という若者と斎藤という年配の男性との会話における世代間ギャップを描くもので、今回はコンビニの駐車場でJAFを待つ間の会話で金井が頻繁に用いる「マジ、神」という言葉遣いに斎藤が引っかかる。
鯉八は『眉唾』。弟が「人は好きな人より嫌いな人に影響を受ける」という“凄い発見”をしたと兄に言うが、兄は「そんな凄いことお前が自分で思いつけるわけがない! 誰からパクった!」と迫り、弟が「そりゃ兄さんには影響されているけど」と言うと「兄さんが嫌いなのか!」となる。独特なイントネーションで飛躍する奇想を日常会話に持ち込むことで聴き手を非日常へと誘うファンタスティックな台詞回しは唯一無二の“鯉八の世界”だ。
昇々が演じた『ヒザコワレス』はプラトンが「イデア論を用いて新商品を売り出そう」と弟子たちと対話し、アリストテレスに「イデアは机上の空論だ」と論破される噺だが、肝はイデア論ではなく、プラトンが弟子の意見に感心して“膝を打つ”行為がどんどんエスカレートしていき、ひたすら膝を叩きまくるバカバカしさ。ネジが外れたようなプラトンのエキセントリックなキャラの可笑しさは昇々作品に特徴的だ。
吉笑の『ぷるぷる』は江戸が舞台の擬古典で、松ヤニを舐めて上下の唇が貼りついたままプルプル音を立てて喋る八五郎が隠居を訪ねて始まる騒動だが、肝は“プルプル喋る”八五郎のバカバカしさ。微妙に聞き取れる“プルプル言葉”の反復の可笑しさで押していくのはコント的な発想とも言える。“論理を弄ぶ”吉笑にしては実験的な作品だが、実際その“反復の可笑しさ”に笑ったので、成功と言えるだろう。