わずか1年前には高い支持率を誇った現職総理が「不出馬」を表明した自民党総裁選。きたる衆院選で自公が政権を維持するならば、大きな節目となる「第100代内閣総理大臣」となる人物が、この総裁選で決まる。ここで重要なのは、総理・総裁としての資質とコロナ危機を乗り切る手腕があるかどうかだろう。本誌・週刊ポストは半世紀以上にわたってこの国の政治を取材し、歴代首相の失敗と成功を見つめてきたベテランの評論家、ジャーナリスト5人に、総裁選有力5候補の「総理の資質」を10段階で採点してもらい、現職の菅義偉氏と比較してもらった。(文中一部敬称略。別稿『「岸田文雄氏の大局観は1点」ベテラン政治評論家が総裁候補5人を採点』も参照)
評者ごとに採点時に重視したポイントは違う。元時事通信政治部長の政治ジャーナリスト・泉宏氏は「決断力」、田中角栄研究で知られる政治評論家・小林吉弥氏は「政策力」、浦和市議や埼玉県議を歴任した評論家の小沢遼子氏は国民への「共感力」、政治ジャーナリスト・野上忠興氏は人や組織を動かす「統率力」、元時事通信解説委員で鈴木善幸内閣以来、政府の行革に携わってきた評論家・屋山太郎氏は「大局観」を重視。本誌は評者それぞれの採点を五角形のレーダーチャートにまとめた。
1位は石破茂氏(26点)となった。5つの評価分野をバランス良く得点した。「共感力」で8点をつけた小沢氏が語る。
「私は議員時代は革新系無所属でしたが、自民党のベテラン政治家の方々に日本の状況、地方の現実を教えていただいた。もともと保守には国民の声を汲み取る伝統があるが、現在の自民党には薄れている。その中で石破さんには国民が何を求めているかを考え、寄り添おうとする姿勢を一番強く感じる。菅首相には最も欠けている部分です」
だが、過去4回も総裁選で敗北しているのは、独善的で妥協できない性格にあると指摘する声も多い。「大局観」で3点をつけた屋山氏の評価。
「政策も安全保障も自分で考え、それで納得してしまって万人に伝えるのが苦手。周りも石破の考えに納得できないから自民党という集団で孤立する。政治家が人を動かすには柔軟性が必要だが、石破は馬鹿正直で狡さもない。そうした自分自身の姿さえ見えていないのであれば、大局観を持てるわけがない」
「政策力」で5点をつけた小林氏も、そこを欠点と見る。
「石破は自民党の多数が躊躇することも、自分の信念で切り開こうとしている。政策至上主義で田中角栄のように立案能力はあるが、真面目すぎて妥協できず、政策が日の目を見ないことがあるのがマイナス」
2位の河野太郎・規制改革相(23点)は「政策力」(5点)、「共感力」(6点)、「大局観」(7点)で高い評価を得た。
しかし、石破氏と同じく、党内で孤立していることが資質としてマイナスと指摘されている。
「河野は勉強家。脱原発や女系天皇容認論など、自民党内にあって言いにくいこと、難しい問題にもあえて踏み込んでいる。だが、派閥でも浮いた存在。総理になるには仲間をつくり、党内からもっと待望論が出るくらいでなければ難しい」(小林氏)