2022年3月の韓国大統領選挙をめぐり、予備戦が始まっている。この結果によって、今後の韓国の外交スタンスは変化するのか、日韓関係にはどんな影響がありそうなのか──。経営コンサルタントの大前研一氏が、“次の次”の韓国大統領まで見越した新世代のリーダー像を分析、解説する。
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約半年後の来年3月、韓国で大統領選挙が行なわれる。直近の世論調査によると、文在寅大統領の支持率はリアルメーターが42%、韓国ギャラップが36%(本稿執筆時点)でほぼ平行線だが、新型コロナウイルス禍が長期化している影響もあり、これからレイムダック(死に体)化するのは避けられないだろう。
その一方で、次期大統領候補の顔ぶれも揃いつつある。与党「共に民主党」が李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事、李洛淵元首相、丁世均前首相ら6人、最大野党「国民の力」が尹錫悦前検事総長や崔在亨前監査院長、元喜龍済州道前知事という具合で、今のところ誰が与野党の大統領候補になるのか、予断を許さない状況だ。しかし、いずれの候補もスネに傷があり、今回はあまり期待が持てない。
そうした中で注目されているのが「国民の力」の李俊錫代表である。1985年ソウル生まれの36歳だ。ハーバード大学を卒業してベンチャー企業を経営し、26歳の時、朴槿恵前大統領に見いだされて政治家に転身。国会議員選挙に3回出馬して落選したが、今年6月の党代表選挙で当選し、韓国の主要政党では初の30代の代表となった。
ただし、韓国の大統領に立候補できるのは「40歳以上」と憲法で規定されているため、李代表は来年の大統領選挙には出馬できない(※日本とアメリカの国家元首になれる年齢/憲法上、日本の首相は衆議院議員の被選挙権がある「25歳以上」、アメリカ大統領は「35歳以上」)。だが、彼には過去の歴史にとらわれず、韓国を未来志向で変革するポテンシャルがありそうだ。
韓国は世代によって発想が全く違う。日本も10~20年ごとに世代間格差が生じているが、韓国の場合は1997年の「IMF危機」をきっかけに大きな変化があり、1998年に誕生した金大中政権の以前と以後で格段の差がある。
金大中大統領は、ノーベル平和賞狙いの北朝鮮に対する宥和的な「太陽政策」は不評だが、IMF危機を乗り越えるために金融、財閥、労働市場、公共の4部門で大々的な国内経済の構造改革を推進し、市場参入障壁の撤廃や外資参入規制の緩和も積極的に実施した。
そしてとりわけ、二度とIMF危機のような屈辱を味わわないために、英語教育とIT教育を強化して人材のグローバル化を推し進めたことは高く評価できる。これはその後の韓国にとって極めて大きな功績であり、それが今や1人あたりGDPで日本に追いつき、追い越そうとしている経済の最大の原動力になったと思う。
当時、李代表は13歳前後。この金大中改革の“洗礼”を受けた“申し子”のようなものである。彼ら韓国の「ミレニアル世代」(1980~1995年に生まれた世代)と次の「Z世代」(1996~2015年に生まれた世代)は、英語とITを懸命に勉強し、世界に打って出ようとしている。
李代表らの新世代はグローバル思考で柔軟な発想ができるから、古い世代の理念闘争の影響をあまり受けていないと思う。したがって、日本については教えてもらう「先生」でもなければ「恨(ハン)」の対象でもなく、単なる隣の大きなマーケットだと考えているのではないだろうか。