国政選挙の文脈で語られることが多かった2021年8月の横浜市長選挙。間接的に菅義偉首相が自民党総裁選出馬を断念、事実上の辞任へと導くきっかけとなったため、なおその側面が強められたが、複数の横浜開発計画の動向が左右される選挙でもあった。日本初の都市型循環式ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマエアキャビン)」が4月に運行開始されたが、横浜にはもうひとつのロープウェイ計画がある。ライターの小川裕夫氏が、コロナ禍により止まったかに見えるもう一つのロープウェイ計画についてレポートする。
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8月22日に投開票された横浜市長選は、横浜市立大学医学部教授の山中竹春氏が初当選。今回の市長選は現職市長や知事経験者・元大臣・元市議といった並み居るベテラン政治家たちが立候補している。それにもかかわらず、行政経験がゼロという山中氏が圧勝できたのは、藤木企業の藤木幸夫会長が全面的に山中陣営をバックアップしたからだと言われている。
藤木企業とは、1923年創業の横浜港を中心とした港湾荷役事業や倉庫荷役事業を行っている企業。そのトップを務める藤木会長は、藤木企業だけでなく横浜港ハーバーリゾート協会会長・横浜エフエム放送代表取締役会長・横浜港運協会会長・株式会社横浜スタジアム取締役会長などの要職を務める。
選挙時に山中陣営から”藤木の親分”と親しまれていた存在だった藤木氏は、まぎれもなく横浜政財界のドン。そして藤木会長は現職の林文子市長が進めていた山下埠頭IR計画に反対していた。もちろん横浜港一帯の開発には積極的だったが、カジノ誘致には懐疑的だったのだ。
横浜港開発にあたって、この10年ほどは右肩上がりで増えていた訪日外国人観光客の存在は無視できない。さらに2020年に東京五輪が開催される期待感から、横浜市でも訪日外国人観光客の需要を見込み、横浜政財界が一丸となってベイエリアの整備に取り組んでいた。たとえば2018年、横浜財界が力を結集した客船ターミナルを中心とした商業施設「横浜ハンマーヘッド」が開業。同地は横浜港の9号岸壁と呼ばれるエリアで、新港埠頭の新名所として話題を呼んだ。そして、横浜港には2つのロープウェイ計画が持ち上がった。
「市の公募によって、横浜のベイエリアには2つのロープウェイ計画が提案されました。ひとつは今年の4月に開業したヨコハマエアキャビンです。もうひとつが横浜市の企業数社が合同した事業体による横浜駅東口から横浜市中央卸売市場・臨港パーク・パシフィコ横浜・新港ふ頭・横浜赤レンガ倉庫・大さん橋・山下ふ頭を結ぶルートです」と話すのは横浜市都市整備局企画課の担当者だ。