中国遼寧省丹東市の中級人民法院(地裁)は8月11日、国家機密を詐取したとして、カナダ人実業家のマイケル・スパバー氏に懲役11年の判決を下した。しかし、同氏は直ちに国外退去処分となり、カナダに強制送還されることになった。刑期を終えずに、事実上の帰国を認めるのは極めて異例だ。
実は、スパバー氏は北朝鮮の最高指導者、金正恩朝鮮労働党総書記とも直接会って、観光関係の国家プロジェクトにもかかわるなど、親密な関係を築いていた。中国側は北朝鮮との同盟関係に配慮して、スパバー氏を事実上、釈放したとみられる。
中国共産党機関紙「人民日報」傘下の国際専門紙「環球時報」は、スパバー氏は2000年から2020年まで、中国滞在中に、中国各地の中国人民解放軍の基地周辺などで軍事兵器などの写真やビデオを数回撮影し、国外の機関に提供。これらの 写真やビデオは、中国の国家機密に属するものとされていると報じている。
スパバー氏はこれらの情報をカナダ人のマイケル・コブリグ氏にも提供していたが、同氏もスパバー氏と同時期に中国当局によって逮捕・起訴されている。
コブリグ氏は2017年から2018年にかけて、偽のビジネスマンの身分と架空の事業計画を申告して中国に入国し、北京、上海、吉林市などで、中国の国家安全保障などに関する大量の未公開情報を収集し、それに基づいて分析レポートを執筆したという。
とくに、スパバー氏がコブリグ氏に提供した情報のなかで、中国当局の関心を引いたのが、北朝鮮の金総書記の動向だ。
米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」によると、スパバー氏は2001年に初めて北朝鮮を訪れ、2005年には平壌の学校で英語教師を務めたとされる。また、2010年から2013年にかけて、北朝鮮との学術交流や北朝鮮人留学生への奨学金支給を目的とする非営利組織「ピョンヤン・プロジェクト」に在籍。2015年にはカナダの北朝鮮交流団体の代表も務めている。この団体は、ドイツやカナダ、イギリス、イタリア、台湾、シンガポールなどの企業の投資動向を、北朝鮮に伝える活動を行っていたという。