病気を治すために飲む薬。しかし、その組み合わせや服用する量によっては、逆に健康を害することもあるという。
たとえば、偏った食生活などが原因で発症する痛風の治療薬は意外な盲点となる。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎医師が指摘する。
「痛風を治す尿酸生成阻害薬と、動脈硬化で滞った血流をサラサラにする抗凝固薬を併用すると、抗凝固作用が増強されて出血が止まりにくくなり、最悪の場合は脳出血を起こす可能性があります。実際に下血が止まらない患者を胃カメラで検査しても胃の傷はわずかしかなく、問診を重ねると痛風治療薬と抗凝固薬の併用が発覚したことがありました」
抗凝固薬はスタチン系の脂質異常症治療薬と併用しても作用が強化されて血が止まりにくくなるリスクがある。
不眠や精神的な不安定さからベンゾジアゼピン系抗不安薬を処方されるケースも少なくない。
日本病院薬剤師会は2018年2月に『多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の対応事例集』を公開。同会は多剤投薬の実態調査の一環として、全国48の病院から対応事例を集積し、内容を精査・厳選したうえで33の事例を詳細に紹介している。その『事例集』には、糖尿病を患う70代男性がベンゾジアゼピン系不安薬処方されたケースが掲載されている。この男性は1日に12種類の薬を服用。ベンゾジアゼピン系抗不安薬のほか、抗うつ薬や抗精神病薬が含まれていたが、医師の判断で処方がとりやめられた。
「不安の原因がうつにあるとして、医師から『試しに飲んでみましょう』と抗うつ薬を勧められて併用に至るケースが少なくありません。しかし抗不安薬と抗うつ薬や抗精神病薬を併用すると眠気や血圧低下、倦怠感や脱力感などのリスクが高まります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存性が指摘されているので、長期投与や増量などに注意し、薬の変更も検討すべきです」(一石医師)
この70代男性は医師や薬剤師らの処方指導で服薬の意図を理解して減薬を進め、危険な組み合わせを解消した。
※週刊ポスト2021年9月17・24日号