テクノロジーの進化とは裏腹に、意思疎通がなかなか難しい時代である。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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コロナ感染拡大危機の中、トップリーダーのメッセージは国民の心に響かず、万策尽きての首相辞任劇。コミュニケーションの難しさがますます浮き彫りになる昨今。何とNHK総合で「コミュ症」をタイトルに掲げた新ドラマがスタートしました。その名は 『古見さんは、コミュ症です』(月曜午後10時45分)。原作は「週刊少年サンデー」で連載中のオダトモヒト作の同名マンガ。ちなみに「コミュ症」とは他者とのコミュニケーションが苦手な人のこと。
ドラマの主人公は、超美少女かつ極度のコミュ症、高校1年生の古見硝子(池田エライザ)。誰かに話しかけたくても緊張して表情が固まってしまい言葉が出ないという悩みを抱えています。
一方、「フツー」がモットーで小心者、超平凡な同級生の只野仁人(増田貴久)はひょんなことから古見さんと最初の友達になる。とはいえ二人の会話は黒板にチョークで気持ちを書きあう独特なスタイル。二人はある目標に向かってぎこちなく健気な一歩を踏み出していく。
傷付きやすい青春期に誰もが抱えるコミュニケーションへの戸惑い。言葉をかけたいけれど相手に拒絶されたらどうしよう。ひとりで生きていくのはいやだけれど他人の言葉が怖い。会話のキャッチボールがうまくできない、話題が思い浮かばない、言葉で人と距離をとるという感覚がつかめない……。
繊細かつ普遍的なテーマですが、しかしこのドラマの画面作りはポップです。
まず興味深いのがキャスティング。ヒロインの古見硝子を演じる池田エライザは25才、凡人の只野を演じる増田貴久は35才。一見して「青春期の若い役者ではない」大人のタレントを意図的に「高校一年生役」の図柄にあてはめる面白さ。溝端淳平の金髪ヤンキー姿もギャグで笑えます。元不登校で自己表現に難アリの高校生役ですが、浮いている感がハンパない。
画面作りも凝っていてスローモーションを多用したりスモークをかけたり。いくつものカットを切り替えたり……遊び心満載。徹底してカリカチュアされた世界ですが、演出担当が『おっさんずラブ』の瑠東東一郎氏と聞いてなるほど納得しました。
そう、吉田剛太郎がバラの花束を持ってサラリーマンの春たんに求愛する、というあの荒唐無稽な突き抜け感が、このドラマの随所に見られます。
「コミュニケーションの難しさ」という直球のテーマを、もし十代の役者が等身大で演じたら? あまりに生々しくリアルなドラマになりそう。しかし、敢えて「大人たち」が演じることでズレ感やパロディ感が出て、見ている側も人物に感情移入しすぎず、「コミュニケーションとは何なのか」という本質的なテーマについて考える。なかなか戦略的なドラマ作りです。