国内

「従軍慰安婦」が「慰安婦」に言い換えられると聞いて感じたこと

時事通信フォト

コロナ禍でも「言い換え」は起きている(時事通信フォト)

 人間の思考が言葉によって形成される以上、表現が極めて重要な要素であることは論を俟たない。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 人は都合が悪いことを語るときは、つい「言い換え」をしてしまいます。誰しも身に覚えがあることでしょう。相手に嫌われてフラれたことを「話し合って別れた」、実力不足で出世できないことを「自分は要領が悪いから」などなど。このへんはプライドを守るためのケナゲな工夫なので、まあとくに罪はありません。

 タレントやアイドルがテレビ番組を降板することを「卒業」と言ったり、どこが旨いのかわからない名物を「珍味」と表現したりするのは、相手への気遣いを込めた言い換え。部下から箸にも棒にもかからない提案が出てきたときには、「もっとマシな案を考えてこい」と厳しく言わずに、相手のタイプによって「今は時期がよくないかな」などとソフトな表現で却下するのが、上司に求められる言い換え力と言えるでしょう。

 こうした「やさしい言い換え」もたくさんあるいっぽうで、昨今のニュースを見ていると、強引な上に魂胆が見え見えの「姑息な言い換え」を目にすることが少なくありません。いや、昨今に限りませんね。戦時中も「撤退」を「転進」、「全滅」を「玉砕」と言い換えていました。もしかしたら日本の伝統芸かもしれません。

 コロナに関するニュースでは、どうやら「医療崩壊」と呼んだほうがいい状態になっているのに、政府は「医療がひっ迫」と言い続けました。自宅療養を中心にするという「方針転換」には、戦時中の「転進」に近いニュアンスを感じます。この先、一日も早く事態が落ち着いて、だけど迂闊に「もう安心です」とは言えないから、念のために「まだまだ警戒が必要ですが」と言い換えてアナウンスする状況になってほしいですね。

 ほかにも、たとえば厚生労働省は、前途ある外国の若者を人身売買に近いやり方で日本に連れてきて奴隷的な扱いをする制度を「外国人技能実習制度」と言い換えています。入管庁は収容中のスリランカ人女性が死亡した問題で、施設内の様子が映った映像の開示を渋る理由について、「自分たちがやったことが知られると困るから」を「プライバシー保護の観点から」と言い換えていました。

 会社などでも、ずいぶん減りはしたものの、セクハラを「コミュニケーション」「愛情表現」、パワハラを「指導」「愛のムチ」と言い換える人が、完全に絶滅したわけではありません。巷の一部では、売春行為の言い換えとして「パパ活」という言葉が便利に使われていたりもします。

 さまざまな例をあげましたが、最初の「やさしい言い換え」はさておき、それ以外の言い換えに共通しているのは「ちょっとみっともない」ということ。マイナスイメージをやわらげたい、責任や落ち度を少しでも軽くしたい、本質から目をそらしたい――。そういった意図とは裏腹に、なおさら印象が悪くなったり評価を下げたりします。

関連キーワード

関連記事

トピックス

佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
大型特番に次々と出演する明石家さんま
《大型特番の切り札で連続出演》明石家さんまの現在地 日テレ“春のキーマン”に指名、今年70歳でもオファー続く理由
NEWSポストセブン
NewJeans「活動休止」の背景とは(時事通信フォト)
NewJeansはなぜ「活動休止」に追い込まれたのか? 弁護士が語る韓国芸能事務所の「解除できない契約」と日韓での違い
週刊ポスト
昨年10月の近畿大会1回戦で滋賀学園に敗れ、6年ぶりに選抜出場を逃した大阪桐蔭ナイン(産経新聞社)
大阪桐蔭「一強」時代についに“翳り”が? 激戦区でライバルの大阪学院・辻盛監督、履正社の岡田元監督の評価「正直、怖さはないです」「これまで頭を越えていた打球が捕られたりも」
NEWSポストセブン
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん(Instagramより)
《美女インフルエンサーが血まみれで発見》家族が「“性奴隷”にされた」可能性を危惧するドバイ“人身売買パーティー”とは「女性の口に排泄」「約750万円の高額報酬」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン
悠仁さまの通学手段はどうなるのか(時事通信フォト)
《悠仁さまが筑波大学に入学》宮内庁が購入予定の新公用車について「悠仁親王殿下の御用に供するためのものではありません」と全否定する事情
週刊ポスト
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・Instagramより 写真は当該の店舗ではありません)
味噌汁混入のネズミは「加熱されていない」とすき家が発表 カタラーゼ検査で調査 「ネズミは熱に敏感」とも説明
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト