温帯の日本が、亜熱帯、いや、熱帯に近づいている。温暖化によって猛暑日は半世紀で3.1倍も増加、短時間の土砂降りも増えている、
温暖化に伴う雨の増加は、私たちに新たな自然災害をもたらす結果となった。ウェザーマップ代表で気象予報士の森朗さんはいう。
「ひと昔前までは自然現象の中で最も警戒すべきなのは台風でしたが、いまは前線の豪雨の方が被害をもたらすことがあります。秋にやってくる台風だけにアンテナを張っておけばいい時代はとっくに終わりを迎え、前線による豪雨が台風と肩を並べるようになりました」(森さん)
環境工学者の島谷幸宏さんも水害の拡大を懸念する。
「水害がやっかいなのはその種類の多さも1つの理由です。線状降水帯や梅雨前線による広域での大雨による河川の氾濫、台風による広域の大雨と風による高潮被害、さらに都市における特有のゲリラ豪雨。地球温暖化によってこれらの水害が増えていくはずですが、これらすべてに目をくばるのは非常に難しい」
さらに恐ろしいのは、水害は発生から被害が及ぶまでの時間が短く、避難が難しいということ。防災システム研究所所長の山村武彦さんが言う。
「特に難しいのが土砂災害の避難です。大雨による洪水や河川の氾濫は、あちこちに設置されている水位計に基づいて氾濫情報や避難情報が発令されますが、土砂災害は地形や地盤、土壌雨量指数や今後の予測など複数の要因に基づいて避難指示を出すので判断が難しい」
たとえば7月に熱海で発生した土石流災害では、発生前に時間雨量41mm/hの猛烈な雨が降ったものの、局地的かつ短時間だったため避難指示は出されなかった。
「8月に長野県岡谷市で発生して、母子3人が犠牲になった土石流も前日までは1時間あたり17mmという少ない雨量で、その後も雨はそれほど強くならないと予想されるなか、被害が発生した地域だけ直前に時間雨量44mmの猛烈な雨が降り、建物の裏山が崩れて被害者宅の2階を直撃しました。
この災害では2階にいた人が犠牲になり、垂直避難が絶対安全とはいえません。地形や地盤など家ごとのリスクによって避難方法やタイミングを考えるべきです」(山村さん)
豪雨が降りやすい夏は終わったが、秋以降も油断は禁物だ。
「以前は秋雨前線といえばしとしとと降り続くのが普通でしたが、温暖化の影響で秋でも大雨が降るようになった。加えて、海水温度の上昇に伴って水蒸気が増加したまま寒い時期を迎えると、その上空に寒気が入り、雪の量が多くなります。
つまり、水害を乗り切っても12月にドカンと雪が降ることがあるということ。温暖化で暖冬になったといえども、大雪が降って被害が生じるケースはあるので、北海道から山陰地方に住む人は特に注意が必要です」(森さん)