「百聞は一見にしかず」とは、人から何回も聴くよりも、自分で一度、見るほうが確かだという意味のことわざだが、新型コロナウイルスの感染防止を考えると、自分で確かめに行くのが難しい。そんな情勢ではネットのクチコミ情報が便利なのだが、前提となっている「リアルな体験の投稿」を無視し、クチコミ評価を上げることができると営業している事業者がある。ライターの森鷹久氏が、クチコミ悪用ビジネスによる混乱についてレポートする。
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飲食店はもちろんのこと、最近では病院や歯科、美容室など、多くの人が利用する場所について「クチコミ」がネット上に投稿されている。クチコミをまとめて検索したり閲覧できるポータルサイトや、地図情報と連動したサービスも複数あり、意識せずとも知らず知らずのうちの目にしている人も多いだろう。そこには実体験に基づいた信頼できる情報があると思われている一方、従業員が客になりすまして店の「良い」クチコミを投稿したり、そうした偽装工作を請け負う会社があると長く噂されてきたが、それは都市伝説ではない。
コロナ禍の昨年末から今年にかけて、事業者たちに、ある「営業電話」がかかってきている。千葉県内の開業歯科医・本田貴之さん(仮名・50代)の元にかかってきたのも、クチコミに関する営業だった。
「うちの歯医者に悪いクチコミがついていると、都内のコンサル業者を名乗る男性から電話がかかってきたんです。言われてネットをチェックしてみると、確かにうちの歯医者について(費用が)高い、スタッフが無愛想、二度といかないなど、ネガティブな投稿がありました。男性は、それらを『消す』ことができるといい、そのためには費用がかかると言われました」(本田さん)
本田さんの歯科医院についての悪いクチコミは、検索エンジンで医院名を検索すると最初にヒットするページに確認できた。地図サービスに付随した評価やクチコミをすることができるもので、本田さんはそこに掲載をしてくれと頼んだ覚えもない、と憤るが、電話口の男性はさらに畳みかけるように営業トークを続けた。
「このままだと客が来なくなる、医院が潰れてしまうと捲し立てる。クチコミを消すのにかかる費用も月に何十万円と高額で、一体全体どんな業者なのかさっぱりわからない。忙しいから、といって電話を切ったんです」(本田さん)
ところがその電話の翌日、スタッフが発見したのは、さらに5個以上ついたネガティブなクチコミだった。本田さんの歯科についての評価は、全部で20件ほどだったのだが、たった1日で悪い評価だけが5個も増えていたのである。
悪い評価が増えたタイミングが良すぎるとコンサル業者を疑っているところに、本田さんへ電話をかけてきたのは、昨日の男性だった。