「私をチームから外しただけではなく、編集首脳はデニヤ氏には引き続きセクハラ記事を書かせていた。『中国人女性たちのセクハラ被害の訴えが、家父長制や男性支配が続く共産党一党独裁下で押しつぶされている』と、自分の行為を棚に上げて正義の筆を振るっていたことが許せなかった」
ソムネズさんは、当時の編集主幹や編集局長に対応の再考を求めたが、ソムネズさんの人事もデニヤ氏に対する処遇もそのままだったという。そして2020年、ソムネズさんは編集首脳を相手取った告訴に踏み切ったというわけだ。
ちなみにデニヤ氏もソムネズさんも、アメリカきっての知日派ジャーナリストだ。デニヤ氏はロイター通信を経てワシントン・ポストに移り、インド、北京、東京支局長を歴任。東京では法政大学で教鞭もとった。一方のソムネズさんはハーバード大学卒業後、中国の名門、清華大学に留学。朝日新聞にアメリカの政治記事を寄稿していた。
米主要紙の東京特派員のなかには意図的に嫌らしい反日記事を書く者も少なくないが、デニヤ氏は英国人エリートらしく、中庸を重んじて極めて公平な日本報道に徹してきた。東京五輪報道でも、「日本の納税者は観戦できないのに巨額の借金を背負う」とか、「五輪マジックはパンデミックの憂鬱を吹き飛ばしたが、東京五輪のレガシーはさらに複雑になった」といった冷静な分析が印象的だった。
ソムネズさんは法廷闘争で一歩も引かない構えだが、日本人としては、支局長交代でワシントン・ポストの日本関連報道が反日に傾かないかも注目だろう。
■高濱賛(在米ジャーナリスト)