ライフ

丸谷才一、野坂昭如、伊丹十三…今も残る文壇バー「ザボン」と文士の歴史

文壇バー「ザボン」の水口素子ママ(撮影/高橋定敬)

文壇バー「ザボン」の水口素子ママ(撮影/高橋定敬)

 かつて政財界の大物や芸能人、プロ野球選手などが足繁く通い、今なお日本一の繁華街として君臨する銀座には、昭和の「文壇バー」の系譜を守っている店がある。店名は小説家・丸谷才一によって名付けられ、芥川賞選考会後には祝賀会が開かれる店として知られる「ザボン」だ。水口素子ママは「おそめ」系列の「眉」の出身者で、銀座歴は49年目。文壇バーの記憶と、激動の今を語る。

 * * *
 丸谷先生には周年記念や季節のイベントの案内状や混雑でご入店をお断わりしたお客様へのお詫び状もサラサラっと書いていただいたり、本当にお世話になりました。野坂昭如先生とも親しくしておられ、よく一緒にお見えになりました。

 当時話題だった吉田満先生の『戦艦大和ノ最期』の話になった時なんか野坂先生は「あれは犬死だった」と言い、評論家の粕谷一希先生は「決して犬死ではない」と午前3時まで議論が白熱していました。丸谷先生は黙って聞いていましたが、後日「あれは録音すべきだった」と仰られていた。このお店ではそんな貴重な議論が繰り広げられることが多々ありました。

 もちろん楽しいこともありましたよ。野坂先生が酔っ払ってご自身が作詞された「伊東へ行くならハトヤ~♪」なんてご機嫌に歌ったり、他愛のない下ネタで笑わせり。作家さんだけでなく、政治家の福田康夫先生なんかも長く通ってくださっています。

 映画監督の伊丹十三さんにエリート男性との結婚願望を話したら、伊丹さんは「銀座の女には不幸の影がないといけない。あんたが幸せな女だったら誰が店に来るんだ」と嗜められたことも。おかげで今も独身です(笑)。

「銀座で死にたい」

 ひと言で文壇バーといってもお客様の棲み分けがあります。たとえばうちには芥川賞にまつわるお客様が、「数寄屋橋」さんには直木賞にまつわるお客様がいらっしゃる。かつて私が勤めた「眉」は両方の先生方がいらっしゃいましたが、眉がなくなってからは自然と棲み分けられたのです。

 実は銀座の再開発の影響で今年11月にお店を移転し新装開店するのですが、それに伴ってお店の形態もガラリと変えます。かつて吉行淳之介先生から「文壇バーなんて儲からないしカラオケでも入れたら」と言われた時には笑ってスルーしましたが、新装開店時にはお昼も営業しカラオケを導入して色んな方に楽しんでもらおうかと。どんな形になっても死ぬまで銀座で頑張りたいと思っています。

関連記事

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
X子さんフジ退社後に「ひと段落ついた感じかな」…調査報告書から見えた中居正広氏の態度《見舞金の贈与税を心配、メッセージを「見たら削除して」と要請》
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレが関東で初めてファンミーティングを開催(Instagramより)
《新メンバーの名前なし》ロコ・ソラーレ4人、初の関東ファンミーティング開催に自身も参加する代表理事・本橋麻里の「思惑」 チケットは5分で完売
NEWSポストセブン
中居氏による性暴力でフジテレビの企業体質も問われることになった(右・時事通信)
《先輩女性アナ・F氏に同情の声》「名誉回復してあげないと可哀想ではない?」アナウンス室部長として奔走 “一管理職の職責を超える\"心労も
NEWSポストセブン
濱田淑恵容疑者の様々な犯罪が明るみに
【女占い師が逮捕】どうやって信者を支配したのか、明らかになった手口 信者のLINEに起きた異変「いつからか本人とは思えない文面になっていた」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
「スイートルームの会」は“業務” 中居正広氏の性暴力を「プライベートの問題」としたフジ幹部を一蹴した“判断基準”とは《ポイントは経費精算、権力格差、A氏の発言…他》
NEWSポストセブン
大手寿司チェーン「くら寿司」で迷惑行為となる画像がXで拡散された(時事通信フォト)
《善悪わからんくなる》「くら寿司」で“避妊具が皿の戻し口に…”の迷惑行為、Xで拡散 くら寿司広報担当は「対応を検討中」
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”4週連続欠場の川崎春花、悩ましい復帰タイミング もし「今年全休」でも「3年シード」で来季からツアー復帰可能
NEWSポストセブン
騒動があった焼肉きんぐ(同社HPより)
《食品レーンの横でゲロゲロ…》焼肉きんぐ広報部が回答「テーブルで30分嘔吐し続ける客を移動できなかった事情」と「レーン上の注文品に飛沫が飛んだ可能性への見解」
NEWSポストセブン
佳子さまと愛子さま(時事通信フォト)
「投稿範囲については検討中です」愛子さま、佳子さま人気でフォロワー急拡大“宮内庁のSNS展開”の今後 インスタに続きYouTubeチャンネルも開設、広報予算は10倍増
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ
「スイートルームで約38万円」「すし代で1万5235円」フジテレビ編成幹部の“経費精算”で判明した中居正広氏とX子さんの「業務上の関係」 
NEWSポストセブン
「岡田ゆい」の名義で活動していた女性
《成人向け動画配信で7800万円脱税》40歳女性被告は「夫と離婚してホテル暮らし」…それでも配信業をやめられない理由「事件後も月収600万円」
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン