生活習慣病の薬は「飲み始めたら一生の付き合い」といわれる。日々の血圧や血糖値、健康診断の数値と、疾病ごとに学会が定めた基準を見比べて、「今日はいつもより高かった」「先月より下がった」と一喜一憂を繰り返しながら、漫然と処方薬を飲み続ける。“そんな生活から抜け出せないか”という声に応えるべく、断薬の名医が上手な基準との付き合い方を伝授する。
糖尿病と診断される基準は、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン」の2019年版によると、糖尿病患者の9割以上を占める2型糖尿病(※)で、血糖値(空腹時)が126mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンA1c)が6.5%以上などと定義されている。治療目標はHbA1cが7.0%未満とされ、さらに〈薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合〉6.0%未満が望ましいとされている。
(※糖尿病は原因によって「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分類される。1型は「膵臓のβ細胞が壊れ、インスリンがほとんど分泌されなくなる」、2型は「主に生活習慣により、インスリンの分泌量が減った」ことによるもの。糖尿病患者の95%が2型糖尿病に当たる)
「いわば“目標を達成していてもさらに薬を服用しなさい”という内容で、今の学会の薬依存の姿勢が表われています」
こう語るのは、これまで診療した2型糖尿病患者の84例すべてで脱インスリンを達成した水野雅登医師だ。
水野医師が実践するインスリン・オフ療法は、食事の糖質を制限し、1日に体重の1.5倍以上のグラム数(体重60kgなら90g)のタンパク質を摂取するタンパク脂質食に変えるのが基本。筋肉を増やして糖の消費を促進し、糖質制限で膵臓を休ませ、インスリンを分泌するβ細胞の働きを回復させるという考え方だ。
「私も以前は、ガイドラインの基準に沿って血糖値やHbA1cを下げるべくインスリンを処方していました。しかし、インスリン注射で膵臓を休ませるつもりが、逆に膵臓がインスリンの分泌能力を失い、同時に、薬の副作用による空腹から大食いしてしまい、インスリン注射の量を増やさなければならなくなっていました」
水野医師は「血糖値300mg/dl以上」や「HbA1c10%以上」など著しく高い場合を除いて、同基準を治療の基準にはしないという。代わりに注視するのは、血中インスリン濃度(IRI)だ。
「合併症の予防には、低インスリン状態のキープが重要ということがわかりました。食後の血中インスリン濃度が低ければ、HbA1cが9%台くらいまでは合併症もほとんど起きない。基準を気にしてインスリン注射で血糖値を下げても、高インスリン状態になると、眼底出血や腎障害、神経障害、肥満、がんなどの合併症リスクが高まります」