平成元年に生まれた子供はもう32才。昭和は遠くなりにけりと遠い目をしてつぶやきたくなるいま、時ならぬ“昭和ブーム”が起きている。1970~1990年代のジャパニーズサウンドが好きすぎて、デビュー40周年を機にカバーアルバム『好きなんだよ』を発売したばかりの、クレイジーケンバンドの横山剣(61才)が、昭和の歌謡曲、ポップスの魅力を語る。
令和を迎えたいま、「昭和の歌が脚光を浴びているのは、当然かな」と、横山剣は語る。
「昭和時代は、いまみたいにコンピューター化が進んでいなかったので、時間をかけて手作業で作品を作り上げていくしかなかった。でもその分、作り手の思いが深くて、巧みな職人技が効いている。だからこそ、人の心を揺さぶるのでしょうね。
それに、丁寧に作られたものは廃れない。僕には22才と18才の娘、10才になる息子がいますが、子供たちも昭和の歌を好んで聴いています。このアルバム(『好きなんだよ』)も大好評で……」
そう顔をほころばせ、口にしたのは、コロナ禍での音楽の接し方の変化。
「たとえば、家族みんなで同じアルバムを聴いて、どの歌が好きかを語り合うということもできる。それこそが、コロナ禍での正しい過ごし方だという気がします。
実際、自粛生活が続き、時間の使い方が変わったことと、昭和の歌ブームは無関係ではないでしょう。ユーチューブなんかを見ているうちに、みんなが昭和時代に宝物が眠っていると気づいたってこともあるんじゃないかな、と思います。
もちろん、新型コロナウイルスは憎いけど、こうなってしまった以上は有意義に過ごさないと損ですよ。
僕のカバーアルバムが、家族の絆を強めるための一役を担えるのなら、メチャメチャうれしいですね」(横山・以下同)
南佳孝が作曲をした『モンロー・ウォーク』で幕を開けるアルバムは、ストーリー性のある構成になっている。
「恋をした人が辿る心模様がテーマです。爽やかに始まり、本気になるにつれて迷ったり、戸惑ったりしながら情熱的な蜜月期を迎える。
でも、やがて心のすれ違いを感じて憂いが生じ始め、別れの気配が忍び寄る。相手の心変わりを察し、苦悩し、諦めの境地に至るといった切ないモードに入っていき、最後はクレージーなトーンで終わるみたいなね。曲順を考えながら、青春時代のことを思い出していました。当時はレコードから自分の好きな歌をカセットデッキで録音して、オリジナルのカセットテープを作っていたんです。
あの頃から自分は曲順にこだわっていたなと。音楽にまつわる自分のすべての記憶が愛しくてたまらない。だって、その一つひとつがいまの自分の血となり、骨となっているわけですから」