「次の総理」を決める自民党総裁選なのに、“派閥のドン”たちは言いなりになる総理をつくろうと思惑をめぐらし、若手議員たちは「選挙に勝てる顔」を選ぶ人気投票に走っている。自民党の権力闘争の中に身を置いたOBたちにはそんな総裁選のあり方が物足りなく映っている。
津島派(現・竹下派)会長を務めた津島雄二・元厚生相が語る。
「私は田中角栄から中曽根康弘の時代に若手議員時代を過ごし、三角大福中(三木武夫、田中、大平正芳、福田赳夫、中曽根の5人の首相経験者)と呼ばれた政治家の権力闘争を目の当たりにしてきた。政治リーダーは“俺が、俺が”というところがなければならないが、今はそうした人がいない」
本誌・週刊ポストは、歴代の総理・総裁の成功と失敗を見てきた自民党OBの長老政治家17人に、歴史の証言者の視点から、岸田文雄・前政調会長、河野太郎・規制改革相、高市早苗・前総務相の総裁候補3人の中で誰が最も総理・総裁にふさわしいかを誌上で“期日前投票”してもらい、その理由を聞いた。
自民党総裁選では過去2回、大番狂わせが起きたことがある。
現職総理だった福田赳夫氏が党員投票(予備選)で大平正芳氏に敗れた1978年総裁選と、弱小候補だった小泉純一郎氏が「自民党をぶっ壊す」と最大派閥を率いる“本命”の橋本龍太郎・元首相に挑み、国民の支持を得て党員投票で地滑り的に勝利した2001年総裁選だ。
「河野さんには小泉さんが総裁になった時のような勢い、流れを感じる」
そう指摘するのは島村宜伸・元文部相だ。
「今回の総裁選では派閥が前面に出ていないから、派閥の力でひっくり返すのは困難でしょう。そのうえ、河野さんは運も良い。このタイミングでワクチン担当を務めていることです。コロナ対策の経緯が分かっているから、総理になってもすぐ対処できる。“天の判断”があるのではないか」
その河野氏は得票数最多で17人中6人が支持した。伊藤公介・元国土庁長官はこう評価する。
「今の時代、総理が他国のトップと直接やり合えるくらいでないと、複雑な国際情勢を乗り切れない。河野氏は海外生活が長く、通訳なしで交渉できる英語力とディベート力がある。もう1つ、重要な能力は媚びないで“尖っている”こと。派閥に媚びず、長老にも媚びず、業界にも媚びない。最近丸くなっているのが心配だが、総理になっても媚びずに自ら信じる政治を推し進めてほしい」