厚生労働省は新型コロナワクチン接種について「接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです」と明言している。そして「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう、皆さまにお願いしています。仮にお勤めの会社等で接種を求められても、ご本人が望まない場合には、接種しないことを選択することができます」と続けている。だが、この呼びかけとは反対へ向かっている職場が少なからずある。ライターの森鷹久氏が、職場で広がっているワクチン接種をめぐる不協和音についてレポートする。
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新型コロナウイルスの新規感染者数は日を追うごとに減少している。これについて「まだ油断するな」、いや「ピークアウトだ」など様々な意見が飛び交い、専門家の間でも見方が分かれている。かしましい議論をよそに、社会や企業は粛々と「元の生活に戻れる」よう、準備を始めている。
その準備の中で、なんと言っても最重要、大前提とされているのが、社員やスタッフが「ワクチンを接種したか」ということである。都内の中堅建設会社人事部に所属する桜井佑子さん(仮名・30代)によれば、社内の大多数がすでに職域接種によって1回、ないし2回のワクチン接種を終えている。そして、このタイミングで「上」から下ってきた厳命は「社員全員の2回接種」だという。
「出社する社員はワクチンの接種が前提、とする海外企業が出始めているという報道が出て以降、上層部で決定がなされたそうです。これまで、ワクチン接種は『個人の自由』とされていましたが、完全に『強制』になる空気です」(桜井さん)
ワクチン接種については、厚労省や政治家、自治体やマスメディアも「個人の自由」としてきた。ワクチンを打つことで感染を100%防ぐことは難しいが、未接種よりも確率は減るし、もし感染しても重症化を防ぐことができる。また、他者へうつす可能性も低下する。特効薬がない今、ワクチン接種は個人の「自由」とはいえ、打たない人は周囲から「なぜ」と不思議に思われる。そればかりか最近では、「反ワクチン」「陰謀論者」というレッテルまで貼られてしまうことがある。そうした状況下で実質的な「強制接種」が始まることに、社内の「未接種組」は戦々恐々としているというのだ。
「接種は自由と言いつつ、未接種者がいる部署では、部長が上から厳しく言われて、部長もバツが悪そうに『なんで打たないか、理由を教えて』と未接種者にヒアリングを始めています。そこでも打つつもりがない、というと、今度は業務を止めてまで『ワクチン教育』がはじまります」(桜井さん)