日本病院薬剤師会が公開した『多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の対応事例集』(2018年2月)には、「医師の漫然投与」による多剤処方への対応事例が紹介されている。
同事例集は、全国48の病院から多剤投薬への対応事例を収集し、33の事例を精査・分類したもの。主に入院により集中的に取り組まれた減薬の成功事例を知ることができる。
70代の男性(別表症例)は誤嚥性肺炎で入院した際に4種類の糖尿病治療薬など計15種類の薬を日常的に服用していた。さらに脂質異常症治療薬と抗凝固薬を飲み合わせるなど、危険な飲み合わせが複数確認されたことで「断薬」に取り組んだ。
『知ってはいけない薬のカラクリ』の著者、谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)が言う。
「服用していた4種類の糖尿病薬はそれぞれ他の糖尿病薬と組み合わせることで低血糖リスクが高まります。脂質異常症薬のスタチン系薬とワルファリンは併用すると抗凝血作用が増強され出血が起きやすくなる場合もある。実際、服用中にワルファリンが効きすぎて消化管出血や脳出血などで救急搬送される方がいます」
その他、「併用注意」とされている抗不安薬と抗精神病薬も処方されるなど危険な飲み合わせが複数あった。減薬の結果、薬は入院時の15種類から9種類になったという。前出・谷本医師が言う。
「病気に合わせて薬が決まる現代医学では、複数の病気に単純に処方していくと、どうしても薬の種類が増えてしまいます。臓器別、専門別に細分化されすぎている現在の診療体系の問題もある。本来は、一人の患者さんの“全体”を診て最適な処方を決めるのが理想です」
医療の構造的問題とも言えるが、そうした危ない処方に患者はどう対策できるのか。その一助とするべく、銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏監修のもと、「漫然処方チェックリスト」を掲載した。長澤氏が解説する。
「10項目のうち、3つ以上当てはまる人は要注意、5つ以上当てはまる人は減薬を検討する必要があるでしょう。【1】の『常時、6種類以上の薬を飲んでいる』は一時的にではなく『常時』であることがポイントです。【5】の『医師の問診時間が極端に短い』の目安は、診療時間が2~3分と非常に短い場合。患者さんの状況に合わせて正しく処方できているとは思えません。
【10】の『セカンドオピニオンを相談したら嫌な顔をされた』場合は減薬に取り組む際に、薬の見直しの足枷になる可能性があるので注意が必要です」
相手(医師や漫然処方)を知り、己を知ることから、健康を蝕む「多剤処方」との戦いが始まる。
※週刊ポスト2021年10月1日号